兄弟が、再び信頼を取り戻すまで(映画「ダージリン急行」を観て)
「フレンチ・ディスパッチ」「犬ヶ島」を手掛けたウェス・アンダーソン監督。ここ数作は芸術性、編集性を感じる作品が続いている。
一方で、2007年製作の映画「ダージリン急行」は、観るだけで元気が出るような親しみやすい物語になっている。ホイットマン三兄弟による、自由気ままな列車旅はめちゃくちゃに愉快。
随所に感じられる監督の映像へのこだわりも垣間見ることができて、監督・ウェス・アンダーソンの「入り口」としても最適な作品だといえる。
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物語のテーマは、信頼だ。
主要登場人物であるホイットマン三兄弟が、どのように再び信頼を取り戻すことができるか、その過程を丁寧に描いている。
父親の死をきっかけに、1年ほど交流していなかった三兄弟。インドという異国を共に旅するところまでは順調だったが、ことあるごとに、それぞれの身勝手な行動に苛立ちを募らせていく。
例えば、長男フランシスは、次男と三男の同意を得る前に、食事をオーダーしてしまう。「勝手に決めるなよ」と言われてもどこ吹く風。「だって肉食べたいだろ?」と言われると、その通りで反論することができない。でも、なんかムカつくし、イライラする。
そんな感じで、それぞれの態度に何かしらムカつくポイントがある。それが積み重なり、手が出るほどの喧嘩になってしまう。
「おれたち、兄弟じゃなかったとしたら友達になれたかな」
「なってないよ」
このやりとりには、ドキッとしてしまった。(そういえば、僕も3人兄弟の長男だった)
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そんな感じの三兄弟が、同じ時間と空間を過ごしていくことで、関係性を深めていく。
列車から追い出されたり、思いがけず幼い少年の死に遭遇したり。
インパクトのある体験を共有することによって、少しずつ、三兄弟が同じ方向を向いていく。「〜〜ってこうだよな」「そうだな」という感じで、それが言葉にされなくても、同じような眼差しを携えるようになっていくのだ。
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当たり前のことかもしれないけれど、信頼は、そう簡単に作れるものではない。
「信頼を取り戻す」という言葉が使われるとき、「そもそも信頼なんて最初からなかったんじゃないの?」なんてことも言いたくなるくらい、一方の思い込みが強いものだったりもする。
人生の中で、長い時間を過ごしてきた兄弟だったとて例外ではない。長い時間を過ごしてきた兄弟だからこそ、修復不可能なまでに関係が拗れていることだってあるだろう。
だからこそ、三兄弟の距離が近付く過程は、心温まるものがある。
色々なことを許し、任せられるようになっていく関係になっていく。そして物語終盤で、母から「もっと自分を自由に表現したら?」というアドバイスを受ける。
自由っぽく振る舞っていたけれど、何かを抑圧しながら過ごしてきた(=自由でなかった)ということなのだろう。
例えば三男のジャックは、小説や詩などクリエイティブなことを続けてきた。そして彼にはパートナーもいる。だけど彼は、自分の作品を表になかなか出せずにいた。パートナーとの関係も悩むことが多い。三兄弟の末っ子ということで、「どうやったら早く旅行を切り上げられるか」ということさえ考えていた。(※列車の中で、女性乗務員とセックスするような大胆さがあるというのに!)
自由とは、表面的な振る舞いにあらわれるものではない。
もっと内面の、心の欲求から発露していくものであり、それは表面的には見えないものであるかもしれない。
そんなことを、作品を通じて感じることができた。
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なお、本作は2007年に製作されたもの。
登場人物は誰もスマートフォンを所持しておらず、色々な関係者との連絡を意識的に遮断している。(次男のピーターは、妊娠7ヶ月のパートナーに行き先も告げず旅に出掛けている)
その気ままさは、自由を感じさせる。
2022年現在、情報にまみれて身動きが取れない社会とは対照的だ。
さすがウェス・アンダーソン作品、15年前にも関わらず、古びていると感じるシーンはほとんどない。だけど、その自由さには、どこかノスタルジーな感覚になって、羨ましいなあと思うのだ。
(Disney+で観ました)
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