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あなたの人生がイケてない理由は何か?(深沢真太郎『わけるとつなぐ』を読んで)

いきなり喧嘩を売るようなタイトルでごめんなさい。

「あなた」というのはあなたかもしれないし、あなたでないかもしれない。だけど間違いなく「あなた」の中に、僕は含まれている。

つまり「僕の人生がイケてない理由は何か?」と読み替えていただいても何ら差し支えない。

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それを踏まえてちょっとだけ、思い出話と懺悔を。

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新卒として2007年に入社したベンチャー企業について。なかなか仕事も大変だったけれど、社員の能力開発に非常に熱心な会社だった。言葉だけで推奨していただけでなく、社費を投じて、若手社員をグロービスの単科コースに通わせていた。

他社でも同じような研修をやっていたところはあったが、大企業に勤める30〜40代の幹部候補生に限定されるもので。24, 5歳の僕が通っていたのは周囲の方には驚きだったようで(怖いもの知らずだったこともあり、授業中は積極的に発言していたこともあったかもしれない)、将来きみは有望だね、なんて持ち上げられたりもした。

実際に、そのとき学んだクリティカルシンキングは、僕の仕事観を大きく変えた。

ただそれは、仕事で「栄光」を掴むような輝かしいものでなく、なんて仕事とは難しいのだという「挫折」に繋がっている。

話を戻す。当然のことながら、少なくない社費が投じられた僕は、会社で期待されることもそれなりに大きかった。筋の通っていないロジックを披露すると「なにそれ?」と呆れられ、全てのタスクが水泡に帰するほど強烈なダメ出しをされることもあった。言葉をスムーズに発せられるということではなく、徹底的にロジカルに物事を捉えているかという話で。知識や経験が乏しいことに起因する未熟さ以外では、甘えは許されなかった。今思えば、座学で得た知識を実践の場で鍛えられることはとても貴重で、社会人としての基礎はこのとき身についたと胸を張って言える。

しかし、社会人としての経験を積み、何度か所属を変えていく中で感じたのは、世の中は論理だけで成立しているわけではないということだ。

論理という武器を使っても「何を言うかでなく誰が言うか」が大切だったりする。その壁は高く、提案する意欲も自信も削ぎ落とされ、徐々に悪循環に(緩やかに)陥ってしまう。

もちろん僕自身も未熟で、筋が通っていないこともたくさん発言していた。

それは認めるけれど、緩やかな悪循環がもたらす疲弊は厄介だった。若いうちにせっかく身に付けた有用な武器(論理的思考のことだ)を、更に磨くことを怠ってしまった。

本当によくないことだ。

あのとき会社が期待して、僕に投じたお金と期待は、未だに宙に浮いていて。世の中に還元できていない罪悪感が、常に脳裏を去来している。

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今回のnoteで紹介する、深沢真太郎さんの著書『わけるとつなぐ』は論理的思考に関する書籍だ。

副題に「これ以上シンプルにできない」とある通り、ロジカルシンキングの初学者に向けられた本で、社会人に限らず、大学生や高校生に読んでも非常に学びになる。それほど長くないので、1時間もあれば読み終えることができるだろう。

本の特徴は、ストーリー仕立てになっていること。

マネジメントをテーマにした『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』や、マーケティングをテーマにした『ドリルを売るには穴を売れ』など、ストーリー仕立てのビジネス書は過去にもあった。本書も、弱小女子サッカー部が、強豪校に1勝することを目指すというストーリーで、つい登場人物に感情移入してしまう。クライマックスは手に汗を握る展開で、最終的に全てのストーリーが繋がり、気持ちの良い読後感を得ることができる。

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ここでタイトルにも関連するのだが、弱小女子サッカー部員たちは、一番最初に「勝てない理由は?」というシンプルな問いを座学で考えることからスタートする。

ここで立ち止まっているのだが、最近、似たような問いに向き合ったことはあるだろうか。

・なぜこの商品は売れないのか?
・なぜやりたいことをする時間がないのか?
・なぜ仕事が面白くないのか?
・なぜ好きな人にフラれてしまうのか?
・なぜ僕の人生はイケてないのか?

これらの問いは、自らの未熟さ認めざるを得ないもので、心が痛む。

本書でも、登場人物たちは自らの課題に向き合うべく、理由を洗い出して「わける」ことを試みる。

すると、技術に関することは一要素に過ぎないことが見えてくる

・経験のある指導者がいない
・練習場所を自由に使うことができない
・ポジションをジャンケンで決めており適材適所になっていない
・自分たちが「何をすべきか」共通認識が取れていない等々。

上記はコントロールできないものも含まれているが、すぐに対処するだけで「弱さ」が改善される項目もある。「我々は弱い、ゆえに練習しても意味がない」では話にならない。

漠然と課題に触れるのでなく、課題を「わけて」、整理された項目を目的(=ゴール)に向けて筋道を立てて「つなぐ」ことで具体的なアクションを見出しやすくなるというわけだ。

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人間、悩み苦しむ時間があったって良い。

哲学者は、いつの時代も人間の欲望について私見を述べており、それはすなわち、人間とは欲望からなかなか逃れることができないことを示している。欲望を満たせる状態にさくっとなれるのであれば話は早いが、残念ながらそうはいかない。悩み苦しみ、ちょっと解決したら、また別のことで悩み苦しむ。それが人間なのだ。

という前提に立ったとき、悩みを適切に解決できた方が「合理的」であることに異論はないだろう。(合理的、という言葉は本書にも言及されており、必ずしも人間が合理的な選択を下すことを「正」としないことも但し書きされている)

解決に至るための出発点は、常に「課題に向き合う」ことだ。

課題に向き合い、適切な思考をすれば、解決に近付いていくというのが本書の要旨だ。(そのポイントが「わける」と「つなぐ」であると筆者は主張している)

シンプルな主張だけに、物足りなさを感じる人もいるかもしれない。

だけど少しでも「イケてない」類の課題に悩みを持っている人は、本書がヒントになるだろう。

論理的思考は完璧ではない、だけど何らかの役には立つ。

そう信じて、僕も(遅ればせながら)実践を再開していきたいと思う。

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本書は、僕が運営している読書ラジオでも紹介しています。よろしければSpotifyまたはApple Podcastでお聴きください。

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