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クローンと愛。(AppleTV+配信作品「スワン・ソング」を観て)

クローンを扱った近未来映画など、世の中に山ほどある。

多くの映画監督が挑んだこのジャンルで、ここまで美しく、静かに仕上げることができた作品を僕は知らない。

「スワン・ソング」
(監督:ベンジャミン・クリアリー 、2021年)

妻と息子、そして生まれてくる新しい命。

パートナーとのささやかな不和がありながら、困難を少しずつ乗り越え、幸せに暮らしていたキャメロン。しかし一難去ってまた一難、思いがけず不治の病に罹患し、余命いくばくもないと宣告されてしまう。

絶望の淵に立たされたキャメロンが提案されたのは、自身のクローンをつくること。まだ実験段階の取り組みで、症例としては3例目。「これからは当たり前のようにクローンをつくる時代がやってくる」と告げられ、悩みながらも、残された家族のために自身のクローンをつくることを決断する。

僕は妻と、ふたりの息子とともに生活している。

普段こういった映画鑑賞において、主人公に深く感情移入することはない。だが彼が置かれた境遇を重ねてしまい、「自分だったらどうするだろう?」ということを考えながら、作品を鑑賞していた。

クローン生成を決断する前、クローン生成を決断した後、クローン生成が完了した後。

大きく、この3つのフェーズで物語(主人公の葛藤)は展開する。「スワン・ソング」がユニークなのは、主人公の葛藤だけに留まらないこと。同じような境遇でクローンを生成した女性との対話があったり、人格を有するクローン側の悩みも描かれている。

「俺だって、いつ消されるか怯える日々なんだ!」

と激昂する、キャメロンのクローン。キャメロンの家族にはクローンだと気付かれなかったが、愛犬には吠えられてしまう。分子レベルで同じ特徴を有しているというクローンだが、人間以外の生物にとっては「違い」が分かってしまうのだろうか。(そういった点もリアルである)

*

末尾にも書いているが、この映画はクローンと共生する社会のことがかなり現実的に描かれている。

だいたいクローンをテーマにした作品の場合、導入時からクローンが前提となって社会に蔓延っている状態で始まることが多い。そういった意味でいうと、本作は一般的なクローン映画とは一線を画する。

印象的だったのは、クローンが生成され、いざ家族との対面を果たすシーン。キャメロン以外の家族は、目の前にいるのがクローンであることを知らずにいる。クローンであることを知っているのは、キャメロンと、キャメロンのクローンと、生成に関わった関係者だけだ。

特に、キャメロンにとっては胸がはち切れるほどの心境だっただろう。自身のクローンとはいえ、他人である。そんな他人が、家族と愛を育んでいく。僕だったら、絶対に耐えられない。

キャメロンも耐えかねて、ルールを破って自宅に押し入る。(押し入るといっても、自宅ではあるが)

そこで改めて目撃する、クローンと家族の交流を見て、キャメロンがどのように行動するのか……。その顛末はぜひ作品を鑑賞していただきたいと思うが、自身の葛藤を乗り越えることができるのが愛なのかもしれない……。思いがけず、愛について考える映画にもなったように思う。

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本作は、Apple TV+のみで配信されています。

物語そのものも素晴らしいのですが、「クローンが生きる社会」がリアルに描かれており、そういった意味でも考えさせられる作品です。

・クローンをつくる上でどんな契約が必要なのか。
・契約書にはどこまで譲歩可能な条項があるのか。特記事項はあるのか。
・クローンを受け入れた後は、どのような段取りになるのか。
・キャンセルポリシーはあるのか。
・クローン生成プロセスにおいて、本人が死亡してしまったらどうなるのか。
・自分の記憶を、潜在意識も含めてどのようにクローンに移植するのか。
・本人とクローンが、同時に遭遇したらどうなるのか。

あくまで本作は、クローンそのものが実験段階であり、法律うんぬんがどこまで適用されるのかは言及されていませんでした。そういった限定された範囲ということで、上記のリアルさが浮き彫りになっているように感じます。

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