『資本主義の方程式』を読む
経済が豊かになるにつれ、人々の興味・関心が消費(モノ)から蓄財(カネ)に向かうことに注目した点。
『資本主義の方程式』小野善康 著
中公新書 (2022.01.25.)
【従来の考え方】
▶ 貯めた資産はいずれモノやサービスの購入に振り向けられる。
ある程度の消費欲求が満たされていれば、モノやサービスの消費をさらに増やそうとはしない。
【しかし】
このことは、豊かな社会で資産格差の拡大が必然的に発生する。
(はじめにp.5より)
第1章 資本主義経済の変遷
経済は「ヒト・モノ・カネ」で動いている。
ヒトは、暮らしていくためのモノを全て自分で作ることが出来ないので、交換するためにカネを必要とする。
しかし、資本主義経済が発展してモノが満ち溢れ足りてくると、消費選好よりも資産選好が顕著になり、カネを媒介として行われるモノの受給調整がうまく働かなくなる。
pp.4〜8. 要約
消費選好の経済社会
将来の消費のために貯える。
市場経済の枠組みの中で、独占や買い占めなど不公正な競争が行われないかぎり、生産者はもっと儲かるように設備投資をし、労働者を雇い生産し、消費者にいき渡るようにする。
消費者は、自分の経済力の範囲で好きなモノを購入する。「見えざる手」
pp.8〜10.
資産選好の経済社会
十分に豊かになった成熟経済では、生活に必要な品々は ほぼ全て手に入っているため、消費者が新たにカネを使おうとすれば知恵がいる。
持っているカネを他人に譲ろうとは思わない。
pp.10〜13.
資産選好と消費選好
図1・2 p.17 より
所得は、消費と貯蓄に振り分けられる
消費:今の消費
貯蓄:将来の消費 資産形成
基本方程式
資産プレミアム:資産を1円でも多く保有することで生まれる付加価値的な満足度
流動性プレミアム
利子率と流動性
時間選好率:今の消費を我慢して待つことの心理的コスト
政府需要と金融緩和 (略)
pp.23〜36.
経済成長
pp.36〜53.
成熟経済
pp.53〜68.
成熟経済の構造
pp.69〜138.
格差拡大
pp.139〜150.
国際競争と円高不況
pp.151〜184.
提言
1950年〜1970年 勤勉と質素倹約
1980年代 成長経済
1990年代 経済成長が止まる
以降 失われた30年
▶ モノ余り(消費するモノがない)の時代、無理して消費を伸ばす必要はない。
▶ 働かずに所得を放棄し、余暇時間を楽しむ事は出来ない。
【ポイント】
生産能力の巨大化により生産されたモノを使い切れなくなった。
ポイントは、消費と云う概念を狭く捉えることなく、衣食住に繋がる品々やサービスに向ける。
pp.186〜199.
【格差拡大と再配分】
人々の経済格差は、個人の生産能力と、将来をどの程度考えているか。と云う個性の違いによって生まれる。
人々の消費選好は消費が増えるとどんどん下がってくるが、資産選好は資産が増えてもなかなか下がらない。
pp.199〜200
消費に回されることなく積み上げられたカネは、単なる資産保有願望を満たすだけで、実際には何の役にも立っていない。
p.202
もし、自分で消費の方法を考えることが難しいなら、寄付金として政府(行政)をとおして、環境・観光・安全・芸術・医療・介護・保育などのインフラやサービス拡充に利用すれば良い。
p.202
資産分配をいかにするかが鍵
【参考】
【最後通牒(つうちょう)ゲーム】
2人で例えば1000円を分ける時、分け方の提案者がそれぞれの取り分を提案して、相手がOKを出せばその提案通りに配分されるが、拒否されればお互いに何も得られないというもの。
pp.205〜207.
【旬なコトバ】日立総研公式サイト
2022.01.30.