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人生のスタイルを実現するための、いくつかの手段。農業は、その中のひとつ」久保寺 智さん(前編)

小田原を拠点に、シンプルな農業を目指している久保寺農園。運営者の久保寺 智(くぼでら さとし)さんにお話をお聞きしました。

ご実家が農家で継いだということですか

久保寺 いえ、実家が農家ではないですし、僕自身も音楽業界で会社員として働いていました。いま思えば、よく会社勤めが出来ていたなぁとは思いますが(笑)。

当時は自分の思いと実際の仕事との折り合いをつけることが、うまくできていませんでした。落としどころを見つけられないまま生活していました。

ある時知人に、農業体験に誘われたことがきっかけで、農とのご縁をいただきます。元々アウトドアが好きで、その流れの中で声をかけていただく機会をいただけたのだと思います。

それが農業に触れたはじめての機会

久保寺 そうです。そのときは、有機農業とか、自然栽培とかそんな意識は全くありません。ましてや、生活をするためのツールになるとも夢にも思っていませんでした。ただ、体験していく中でとても面白いと感じるようになったんです。

という感じで、最初から農業に取り組もうと計画的にやってきたわけではないんです。興味の向く方に進んでいったら、たまたまそこに農業があった。そういう感覚です。

本格的に農業に進もうと思ったのは

久保寺 これは突き詰めていく価値のあるものだな、という思いが固まった時期があり、「農業とはなんなのか」を知るために方々の農村へ旅に出ました。1年程かけて各地の農場を訪ね歩きました。

関東圏がメインではありましたが、四国、兵庫の方にもいきました。20軒くらいでしょうか。慣行農業、有機農業などさまざまな農業のスタイルに出会いました。野菜だけでなく、果樹園にも行きました。農産物、スタイルを問わずにいろいろな農家さんを訪問しました。

旅先の農場ではどんなことを

久保寺 ただお話を聞かせていただいた農場もあれば、住み込みで働かせてもらった農場もあります。その時々で興味が向いた場所を尋ねてまわりました。農業とはなにか、農家の皆さんがどういう気持ちで農業をやっているのかを知りたかったんです。

貴重な体験ですね

久保寺 いまの自分を作っているのは、農業旅での体験だと思っています。とはいえ、その当時はこんなことをしていていいのか、そろそろお金を稼がないと生活が成り立たないかも…など、実は葛藤もあったんです。そんな迷いを越えてしまう楽しさがそこにあって。

農業に可能性があるなと感じはじめていましたし、なにより、心の声は「このまま進むべき」と。その生活の中で、農業で生活していくという道に進む決心が固まっていきました。

印象に残っている農場はありますか

久保寺 どこもとても楽しく思い出があります。しいて言うなら、ひとつは茨城県にある久松農園。3か月ほど過ごさせてもらいました。ここでの農生活で、「農業を自分でやっていこう」という気持ちがより一層強くなったことをよく覚えています。

次に、三重県にある赤目自然農塾。実際に作業をし、学びの場に参加させてもらった訳ではないのですが、自然の営みに沿った農を実践している圃場を目にし、農業にはカタチの違った面白い世界がたくさんあるんだなと、強い衝撃を受けたものです。

それにしても1年は長いですよね

久保寺 いま考えると無茶な行動だったかも(笑)。やりたいと思ったら行動しないと気が済まない性格なんです。心の声には嘘をつきたくないんですよね。その当時はすでに結婚していたので、妻に承諾を得てから行きましたけど。いまでも妻のお許しにはとても感謝しています。

実際に農業を始めるにあたって何からスタートしたんですか

久保寺 どこで農業を始めるか考えたときに、地元の神奈川が頭に浮かびました。情報を探していく中で相原農場の相原成行さんを知り、会いにいきました。相原農場は研修生、援農を受け入れているので、アルバイトをしながら1年半ほど研修生として通い、いろいろなことを学ばせていただきました。
そして、生産者としてスタートした

久保寺 就農と同時にここ、小田原に来ました。実家のある場所でとも思っていたのですが、すぐに農地を借りることができませんでした。

しばらく実家周辺で農地を探していたら、現在の土地とのご縁をいただき、「ここで農業をやろう!」と決めました。いまは就農してからちょうど6年目に入っています。


久保寺農園が目指している「人の力と少しの道具でできるシンプルな農業」について教えてください

久保寺 農業のテーマ以前に、人生のテーマがあります。「自分の力で。頼るものは少しのもの。好きなことにチャレンジする。」その中の一つに農業がある。依存する物が少ないということは、なにかが起こったときに対処できる強さがあるということ。

少しオーバーに聞こえるかもしれませんが、サバイバルみたいなことができればできるほど、自分のエネルギーが高いと実感できる。いかにそういう状態に自分をもっていくことができるか?? ということは良く考えています(笑)

その考えはいつ生まれたものですか

久保寺 もともと、依存物を少なくして生きていきたいという思いがありました。いつからかはよくわかりません(笑)。僕は自然の中で遊ぶことがとても好きです。山に入っても普通に登山をするというよりも、少ない荷物で山中を長距離走り抜けたり、ロープを背負って岩壁を登り降りするような山旅の方が好みだったりします。

農業旅のときも、茨城や千葉には自転車で行きました。自分の身体と少しの道具でなにかを完結できる楽しみに快楽に似たような価値観を覚えるのです。依存物をなるべく少なくし、その上で勝負する。自分のエネルギーを信じて進んでいく感覚。これはなにものにも代えがたい価値があります。

そのような価値観は今の自分の農業のスタイルに通じているとも思っています。自分自身が突き詰めたいことと、リスクのバランスをとり、自分の中から湧き出るエネルギーでどこまで進むことができるのかを追求していきたいと思っています。自分にとっての今の農業は冒険旅のようなものなのかもしれませんね。


追い求めている人生のスタイルがあって、農業はその中のひとつ、なんですね

久保寺 そうですね。アウトドアもスポーツというよりは、自然と自分の身体や心のつながり、という感覚が好きです。より原始的に、よりシンプル生きていくことを追求して、その先にある楽しみを求めているのかもしれません。哲学や思想ではなく、己の中の真理を求めているという感じでしょうか。


そうすると、いまの農業スタイルに行きついたのは必然かもしれません

久保寺 人生のテーマと矛盾しないスタイルで農業ができる可能性を感じることができたのは、やはり農業修行旅での様々なご縁があってこそだと思います。

いろいろな農業のスタイルを見てきましたが、現在の僕が理想としているようなスタイルにがっちりハマる農業を生業としている方とのご縁はいただくことができませんでした。(いらっしゃるのだとは思いますが、僕が旅の中で出会うことができなかったということです)

しかし、可能性を感じることはできた。後は、どうすれば自分の理想を具体化できるのか。考えてやってきた結果、いまの農業スタイルに辿り着きました。丸5年やってきて、今の所生活もできていますし、生き方としての価値観を高めることを両立できている実感を持てるようになりました。

インタビュー後編は、「横浜とれたて野菜」でご覧ください。



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堀尾タモツ
Webの仕事のかたわら、食・農業に関わっています。最近、ついに畑を借りてしまいました…。本業が…、