ホッポウ ミユキ
家を早朝に出て空港まで行っても、飛行機に乗れないことはないけれど、バタバタするのが嫌なので、成田空港に泊まった。 9hours ここは、カプセルホテルだけど、もちろん男女は別だし、システムがシンプルで使いやすい。 成田で中華料理を食べる。これから台湾に行くのにね。 坦々麺。1,485円。高いね。 美味しくも不味くもない。今日はこれくらいで良いのだ。
上空8,000メートル。機内に温かい拍手が溢れる。 私も送ってる。この状況で拍手しないでいられる人がいるのか?こういうところに出くわすのが私。失恋したての身で。 「何度も話し合ってきたことだろ」 「そうだけど」 「遠距離続けられないって言ったのくみちゃんだし」 「だけど」 「だったら高知に来る?」 「…それは」 こんなやり取りを何度しただろうか。ここ数カ月は別れ話ばかり。何度も別れて何度も戻って。だけど今度ばかりは終わり。好きな人ができたって言うんだから。
地図は頭に入っているから、足で思い出しながら登っている。足は地図の道をなぞりながら、頭は地図で思い描いた景色を浮かべながら。そして眼は現実の景色を追う。どれか一つでも欠ければ、僕は遭難する。いつも登るのは一人だ。学生時代は仲間と登ったけれど、社会人になって忙しくなってから、誰かと早めに予定を合わせて登るのは難しくなった。サークルに入ったばかりの頃、地図を読むことに夢中になった。地図の北と実際の北を合わせるということや先読みの感覚を身につけることに。 * 山?
あんな苦しみを経験した人たちがなぜ?と思う。そう思う時いつもこの曲を聴く。
全員が大阪の言葉を話せないのは偶然だった。浩子は千葉から、私は名古屋から、それぞれ一年前、祐介くんはつい三か月前に福岡から来た転校生だった。 浩子は千葉の前には東京にいて、私は埼玉、名古屋から大阪へ、祐介くんも九州の中をいくつか回って、五つ目の転校だった。転校生同士という気安さはあったけれど、転校生が一緒にいれば、他の子たちとは仲良くなりづらい。それを知っていたからか、同じマンションに住んでいながらあまり話すことはなかった。 私はどうにか仲良しを作り、祐介くんは、物珍し
記憶の中の香りは、褪せることがない。映画「時をかける少女」で、主人公をタイムトラベルに誘うのは、ラベンダーの香りだった。原田知世扮する少女がむせかえるようなラベンダーの香りに包まれて過去への扉を開けるのは、祖父母の家の温室。 温室は、冬に夏の花を、寒冷地に南国の花を咲かせる。それはどこか異界の入り口を連想させるのかもしれない。 札幌の中心部にそんな異界への入り口がひっそりと残されている。 北3条西2丁目、通りに面した何軒かのビルの中に、いくつもの広告が貼られたド派手なビル
「ブラジル政府、第2次大戦後の日系人強制収容巡り謝罪の意向…人権侵害巡り7月再審議へ」 とのニュースを見て、昔小さな賞をもらった物語を貼り付けたくなりました。ロサンゼルスの日本街を舞台にした話です。 これは私が唯一お金をもらった文章。賞金700ドルは、今までもらったどんなお給料より嬉しかった。 1 ネットオークションの最後15分で値が吊り上がって、目当ての小引き出しは、78,000円になった。5000円までと決めていたのに、競り合いになってヒートアップしてしまった。
モスクワを旅した人から、お土産にチョコレートをもらったことがある。人からもらったものを食べておいてなんだが、ただ甘いだけで、砂糖の塊を食べているような気分になった。 だがこれは、"ソ連のチョコレート"であって、"ロシアのチョコレート"ではないのだそうだ。 「あのね、教えましょ。砂糖入れるとそのぶん原価安くなる。ロシア人があまいの好きと言っても、ほんとのロシアチョコレート、ただあまいだけでない。」 神戸で高級チョコレート店として知られたモロゾフの(後のコスモポリタン製菓)
北海道に住む私が、知り合いもいない神戸へ何度も通っている。それは、一人の白系ロシア人の足跡を訪ねてのことだ。 昨夏、私は再度山の外国人墓地にある人のお墓を訪ねた。山道のカーブを曲がりながら、「初めて行くよ」とタクシーの運転手さん。確かにこの墓地は、横浜や青山の外人墓地のように有名ではない。 私が探したかったイワン・セルゲイエビッチ・ウォルヒンさんの墓は、墓地の入り口に近い正教徒の墓の並ぶ一角にあった。ロシア革命を逃れて日本にやってきた白系ロシア人であるウォルヒンさんと私は