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連載: 不幸ブログと現実のキミ⑤

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主人公・由奈は大学2年生。
彼氏の子を妊娠するも、流産してしまう。
悲しみにある由奈は大学の友達に自身の身の上を話、同席した人気ブロガー・真百合にネット上で暴露される。
 怒りで真百合の出演するイベントへ乗り込むと、会場には由奈と同じ、真百合は他人の不幸を利用している事実を知らされ、由奈は他の被害者たちと共に真百合の行動を糾弾する決意を固める。イベントで真百合に直接対峙するが、彼女は自己正当化を続け、由奈は痛みを利用されたことを訴える。しかし、周囲の注目を集める中、スタッフに追い出され、名誉毀損で訴えられるという理不尽な事態に直面する。
 インフルエンサーの影響力とプライバシーの侵害、そして友情のミステリー。

          第五話

 昨日の騒動を受けて今日は日曜日ということもあり、アパートに引きこもることにした。

 朝陽が窓から差し込むが、ベッドの中は心の重さで暗く感じられる。パソコンやスマホを見ても私に良いニュースは見当たらないと思う。
 炎上が続いているかもしれないし、そうでなくても真百合のブログが気になってしまう。

 思わずカーテンを開けると外は青空が広がり、
洗濯でもしようかと考え直したが気分はすっきりせず、どんよりとしたまま。

 身体を動かそう。

 洗濯機の音が静けさをかき消すようで、
真百合のスタッフから名誉毀損で訴えられるかもしれないという不安がのしかかる。
明日も大学を休みたい。
「単位は大丈夫だよね」
頭の中で計算していると、玄関のチャイムが鳴る。

 インターフォンを押すと、そこには菜摘と栗子が立っていた。二人の姿はどこかホッとする。

 菜摘はうちに泊まるつもりでスーパーで買い物中、偶然栗子と出会い、来てくれたという。
 栗子も私が落ち込んでいるのではないかと心配して訪ねてきたようだ。

 そうこうしていると、また玄関チャイムが鳴る。同じ学科の陽菜だ。
 焼き芋を二本抱えて「りっちゃんとなっちゃんも来てたんだ」と言いながら女子が四人揃うと、部屋の中に和む雰囲気が広がる。

「みんな同じことを考えるのね」
久々に笑顔が浮かんだ。



 陽菜は無邪気に
「真百合ちゃんって焼き芋の匂いがするよね」
菜摘と私が声を出して笑い、栗子は表情を失った。「ごめん、空気読んでなかった」
慌てて陽菜が謝る。栗子は「ううん」と首を振る。

「そうじゃないの。ずっと気になっていたんだけど、オフレコにしてもらえるかな?」
私たちは目を合わせて頷いた。

「私ね、高校時代にアメリカへ交換留学してたの。一部の地域に行くと真百合と同じ臭いがするんだ。
もしかして、あの子、ヤバいことしてるんじゃないかなって」

「ヤバいことって?」菜摘が問う。
「……薬物」

「そういえば真百合って、猫のオシッコを放置したみたいな臭いが香水と混じってたよね」
「あ!分かる〜!形容できない臭いがする」

ムンクの叫びのような菜摘は
「うっそ、えっ?え〜!」と両手で口を塞ぐ。
「本当だよね?」「うん」「だよね」

「りっちゃん、いつから気づいてたの?」
「大学のオリエンテーションのときから」
「でも薬物やってる証拠がないよね?」
「まあ、そうなんだけど。浅岡くんも同じことに気づいてたよ」浅岡くんも私の同期だ。

 私たちは焼き芋を食べながら、真百合のことについて話し続けた。焼き芋の甘い香りが不安を少し和らげる。

 陽菜がふと
「でも真百合ちゃんが本当に何かやってるなら、
私たち、気を付けないといけないよね」
みんなの表情が少し曇り、
部屋の空気が張り詰めたように感じられた。

「真百合さんに直接聞いてみていいんじゃない?」菜摘が提案するも、栗子は言葉を慎重に選びながら「もし本当に何かあったら、真百合を追い詰めることにならない?」心配そうに言った。

 私はその場の空気を和らげるために「それでも、私たち友達なんだから。心配してるって伝えるのは大事だよね……。私は言いにくいけど」

 私たち四人は真百合をランチに誘い出し、素直に心配していることを伝えようと話し合った。
 友情が試される気がした。



 月曜の朝、大学に行くと、
真百合は想像以上にハイテンションで
「昨日、YouTuberの人たちと宅飲みしたよ」と話し始めた。真百合は周囲の空気を明るく照らすようだ。
 今度、インフルエンサーが集まって収録するという自慢話をしている。

 私たちに笑顔で手を振り、私と菜摘がイベント会場に乱入したことを気にしていない様子だ。
 少し緊張しながらも、栗子から真百合をランチに誘った。真百合が提案を受け入れるとホッとした。



 学食は相変わらず騒がしかったが、ランチの席で私たちはお互いの近況を話し合いながら、徐々に真百合のことに触れるタイミングを探った。

 陽菜が「最近、疲れてるみたいだけど大丈夫?」と自然に聞いた。
真百合は一瞬眉を顰めたが、すぐに笑顔に戻り
「ちょっと忙しいだけ、なんで?」

 真百合の言葉に少し安心したものの、どこか引っかかるものが残る。真百合がお手洗いから戻ってくると、一層強い臭いが鼻を突いた。

 彼女の反応を見ながら少しずつ話を進めていくが、真百合は本当に大丈夫なのか、私たちがどれだけ彼女を支えられるのか、これからの展開が気になるところだった。