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心が糸で絡め取られる時間【2024年創作大賞感想文】
ふみさんは日頃から詩を中心に、日常での気持ちを描いていらっしゃる。
そのふみさんが小説『糸』を出品なさった。
ふみさんご自身はどう自分をご覧になっているのか聞いてはないが、デリケートな心の優しい温かい人だ。
その『ふみさんだから』書ける小説は、
情景と主人公の感情が一致しているように思えた。
【あらすじ】
あのころ、私は中学生だった。
当時は、何もかも不思議だった。特に、姉のこと。
何を考えているのかわからなくて、何もかもが不安だった。
その夏、姉との、日々。
姉を通して世界を見つめていても、わからないことばかりが増えていく。
様々な糸――光、雨、蜘蛛、つながり、それは心や想いまで広がっていく。
それは、本当に、私の思うものと、一緒なのかしら。
姉には、何が見えて、どうしていったのだろう。
その心は――
様々な糸を通して見える世界の、先には何が、あるのか。
冒頭の情景描写は耽美で、映画を文字に起こすと、
「まさにその通りです」
私達が見ている毎日の一つひとつの光景が目の前に広がる。
人の呼吸や周りの声や音まで聞こえて、
「なんて美しいのだろう」
書いてあることを素直に読めばそう思う。
しかし私には最初から最後まで鳥肌が立つほど怖かった。
オールカテゴリ部門の作品でホラー要素はない。
小説には蜘蛛が出てくるのだが、私は蜘蛛が平気な人種で、それが原因じゃない。
一話目を拝読して、「この怖さはなんだ?」
幽霊も血も悪い人も出てきやしない。
美しいのに何故なのか、早く二話目が読みたかった。
ふみさんの作品コレクターだから早く読みたいのもあるし、怖い原因が知りたかった。
二話目で主人公・容子と姉の会話が始まる。
姉は唐突に容子へ
「幽霊を信じているか」尋ねる。
でも、怖いのはそこじゃない。幽霊は出てこないのだから。
三話目の始めで気がついた。
詩的な情景描写は心理描写であることを。
小説は容子の葛藤から始まるんだと、だから怖かったんだ。
猛暑や整えられた民家、そして糸が見えない蜘蛛の巣にいる蜘蛛の存在は容子の感情の流れを強く印象付けていると。
容子が抱える不安や孤独が鮮明に気温や湿度などに反映され、私が容子に飲み込まれる。
それこそ蜘蛛の糸で心が絡められていく怖さは、脳内再生が具体的になればなるほど容子へ私の気持ちが引っ張られていくからなんだ。
容子は「わからない」とよく言う。
そして姉の気持ちなども分からないと内心呟く。
姉妹といえど性格云々ではなく、分かりっこないはずが、第三者の私にはどうしてか容子は分かっているんじゃないかと感じた。
晴天や雨で酌み取る容子の気持ちは、姉への羨望と嫉妬があるように思えた。
容子にはない姉の快活さがあるから、天候へ自分の感情を吐き出しているような気がした。
蜘蛛と容子、蜘蛛と姉妹から、自分の存在意義や生命の神秘と儚さ、何より姉がいなくなったことで無情さまでがひしひしと私へ伝わってくる。
「お姉ちゃんがいなくなって寂しいね」
容子と蜘蛛のエピソードから痛いほど届く。
喪失の痛みはセリフにしなくても、こんなにも大きく被せる技術が素晴らしいと思った。
自然の中で、人の感情や存在の意味を深く掘り下げてあり、読み手には非常にインパクトが濃く残る。
それだけ小説に臨場感があるからだろう。
私はどうして冒頭から怖かったのか。
再びこうして私自身を考察すると、
耽美に不安感や緊張感が見え隠れし、不安が恐怖に変わるから。
感想文なので肝心要は書かずにしているが、
もう一度言う。
容子の感情に飲み込まれる私がいて、
第五話は鳥肌が立ってゾクゾクし、怖かった。
ふみさんの意図とはかなり異なるかもしれない。
もしかすると、姉を悼む慰霊の小説と読める。
印象が強すぎて、ぜひ感想文を書かせていただきたいと願い、こうして投稿する。
ふみさん、ありがとうございます。