連載: 不幸ブログと現実のキミ②
栗子が帰ったあと、私は混乱状態で真百合のブログを開き「いいね」が多い記事から読み進めていく。画面に映る真百合の微笑がどこか冷酷に感じられた。
「ひょっとして、このエピソードは……」
頭の中に疑念が浮かぶ。
私たちは女子が少ない学科に在籍し、どの子とも仲良くやっている。
波風を立てないように、リーダー格の真百合を怒らせないように、皆が気を遣っている。
真百合は気に入らないことがあると口調が荒くなり、物を投げるなど乱暴な一面を持っていた。
頭の回転が速くユーモアに長けているが、どこか他人に疎い。
そんな真百合は私が流産したときにかけてくれた優しい言葉が今でも胸に残っている。
しかし
「真百合の身につけている物は、私たちの不幸で得た収入で買った物なんだ」
インフルエンサーになると高収入が見込まれると噂は聞いたことがある。もし真百合が私たちの涙を売って私欲を肥やしているのなら、やるせない気持ちが募る。
「でも、どうすればいいの?」心は呟く。
裁判沙汰にできる費用もないし、弁護士も知らない。ブログには私の名前は書かれていない。
真百合が流産した証拠はないが、何の罪名で訴えればいいのかも分からない。こうして栗子や他の人たちは泣き寝入りしたのかと思うと、真百合の卑怯さに腹の虫が治まらない。
「でもな……」頭の中で反響する。
私が真百合や友達に話したのが悪かった。私さえ言わなければ、こんなことにはならなかったのに。
彼に相談したくても真百合に話したことを怒られるに違いない。口が軽いと責められる。八方塞がりの私は泣き寝入りではなく、自業自得だと感じる。彼が実家から帰ってきても、暫くは黙っておこう。
「でもね……」スマホへ手が伸びる。
親友の菜摘に話を聞いてもらおうか悩む。
菜摘からは大量のLINEが届いていて、冬休みの間のメッセージには私の心身を労わる言葉が並んでいた。
「どうしようかな」と思いながら、菜摘へのLINEにスタンプを返してみる。
すると、何秒もしないうちに着信音が鳴り響く。「由奈っち、大丈夫なの?」その声は心配そうで、私は小さく頷く。「うん」と答えると、菜摘の声が涙声になった。
「生きていてよかった」
私のことをこんなに心配してくれる人がいたなんて、感激で私も涙声になった。
自分の体温で暖まった布団にいると、菜摘の声が染み渡る。
菜摘は高校からの親友で、今は学部が異なるが同じ大学にいる。菜摘も真百合のことはインフルエンサーとして知っていた。
「なっちゃん、あのさ」私は重い口を開く。
流産のことは既に伝えていたので、真百合のブログの件を話すと、菜摘は
「やっぱりね」と、何かを知っている様子だった。私の中へ不安が広がる。何を知っているのだろう。
真百合のブログの裏側には、どんな秘密が隠されているのか。
「なっちゃん、真百合のブログ、
ちょっと変じゃない?」
私は思わず声を潜めて問いかける。
「まあね。投稿があるたびに、
人生のドン底へある話が能天気に語られて、
話を盛っているのかなぁとは思ってた」
菜摘は少し考え込むように言った。
「由奈っちの流産のことを知ったとき、
真百合はどう思っていたのか気になるわ」
真百合が私の痛みをどう受け止めていたのか、
そしてその感情がブログにどう影響しているのか。菜摘と話しながら彼女の投稿を読み返すたびに、
私は疑念が膨らみ、爪を噛んでいた。
「でも私たちがこのことをどうにかしないと、
彼女の思う壺だよね」
菜摘が言い、私は強く頷いた。
真百合の影響力を考えると私たちが何もしなければ、彼女の思い通りになってしまうかもしれない。
「私、真百合に直接話してみようかな」
電話の向こうの菜摘が小声の悲鳴をあげた。
「ヤバいよ。危険じゃない?」
「でも、これ以上放っておくのは嫌よ。
利用されるのはもうウンザリ」
言い返すと、菜摘は黙り、少し考え込む。
「どうやって?」
ふと頭に浮かんだのは、真百合のインフルエンサーとしての活動を手伝うという案。
私たちが彼女の周りにいると、彼女の行動を見張ることができるかもしれない。
「インフルエンサーのイベントに参加してみるのはどう?」私は提案し
「真百合の周りにいることで、
何か気づくことがあるかもしれないよ」
菜摘はまた少し考えた後、頷く。
「それなら私も一緒に行く。
二人なら心強いし、何かあったら助け合える」
私たちは、それぞれの場所で真百合の次のイベントの日程を確認し、計画を立て始めた。
不安が影になるが、少しだけ希望が芽生える。
真百合の真意を探る第一歩を踏み出すことができると思う。
菜摘との電話を切り、私は真百合のブログを再度開いた。
真百合の投稿を一つ一つ読みながら、私の心の中で何かが変わり始めているのを感じた。
真百合の言葉が、私の過去の痛みを掘り起こすように響いてくる。