短編: 僕が田んぼに来て思うこと
金色に錘が付いているような、
僕は初めてお米の実を見た。
野原と同じ匂いがして、風は吹いても音がない。
「これがご飯になるの?」
ハムスターの僕は、穂の中へ白い粒があるぐらいにしか考えてなかった。
「そうそう、脱穀して玄米から更に白米にして」
飼い主のタツジュンは人間だから普通のことでも、僕には意味が分からない。
ダッコク、ゲンマイ、ハクマイ。金色の粒には過程があるのだけは承知した。
「ねぇ。田んぼってどうなってるか、見ていい?」
畦道に下ろしてもらった僕は、草を掻き分け田んぼって広場を探検してみたかった。
乾いてヒビ割れた地面に無数の茎の束はあり、
束が一直線に整列して生えていた。
金色の束と束の下は空間で、虫が跳ねている。
これが田んぼというものなんだ。
お米の束に囲まれた僕は、急に独りぼっちになったような
「タツジュン!」思わず名前を呼んでいた。
僕の胸には田んぼにある、束の隙間のような空虚と寂しさがあった。
飼い主のタツジュンは僕のためにここへ連れてきてくれたけれど、僕はその優しさを受け入れることができずにいる。
素直に愛情を取り込めない、僕の無力さ。
タツジュンが僕へ尽くしてくれるほど、期待に応えられない自分がもどかしくて、心を閉じてしまっていた。
お米の粒へ乗ってみたくて僕は茎を登る。
途中までは頑丈な茎も緑色が混じった部分からは、僕の重みで茎は垂れ下がる。
慌てて茎へしがみつくと、僕の頭上へ鳥が舞って、夏より空が高く見えた。
僕は金色から飛び降り、畦道を走る。
朱色が繊細に散った花火の形をした花束が誰かを迎えるように咲いている。
遊んでいると少しだけ気持ちが軽くなり、僕の側にはタツジュンが座っている。
自然美に触れ、僕の閉ざされた殻が少しだけ開いた気がして、タツジュンの想いを感じながら、僕は少しずつを結びつきを取り戻していくのかもしれな
い。