本を書くっても、素人文芸賞でさえ佳作に引っ掛からない。公募は遠い夢でさ。
印税でご飯を食べるって、継続する才能以外の天賦の才があってこそだね。
でもね、神さまは私を見離さなかったよ。
裁判で話さなかったけどさ、
今日で15年になるから言っちゃうね。
深夜バイトの帰り、キツツキの木をつく音がして。
垣根の向こう側を見たら、石油の臭い、
いや、メタルクリーナーだったそうで
小さな女の子がチャッカマンを使ってたんだよ。
後で聞いたら、小学1年だったらしい。
一軒家の角が燃えて行くのは早くてさ。
女の子はチャッカマンを道路へ放り投げ、
脱兎の如く屋内へ入って行ったわけよ。
私さ、アホでチャッカマンを拾って
すぐに119番したんだけど、家は全焼。
女の子は救助されたんだが、犯人は第一発見者の私ってことで。
スナックのバイトをしていたじゃない?
何をやっても上手く行かない時期だったから、
いつ死んでもいいぐらいに思って。
女の子の仕業は言わなかった。
分からんことは黙秘して、
裁判で死刑判決が出たとき
「今、妄想をノンフィクションとして出せば
本を出版すれば売れるんじゃないか」
目論見は的中してさ。
それからは何を出してもベストセラーだって?
私、才能があったんだね。
ウケるよね。
拘置所に入って12年。
そろそろお迎えが来るかな。
最期に、アンタには出版で世話になったし、
独白をどう使おうが任せるわ。
事件の真相は、私も知らないの。
ただ、本を書くってこうまでしないと売れないね。
いい人生だったのか、分かんないわ。