短編: 家系図のある家
私は歴史が苦手だ。
この間も曽祖父の五十回忌で恥をかいて、頼りの父は取り付く島もないといった表情を浮かべていた。
薄暗い寺の本堂には香の煙が漂い、蝋燭の炎が揺らめく。うちは代々寺の住職で、父は会社員をやりながら休日は坊主になっている。
「五十回忌だからじゃないが、うちの家系図をみんなで見てみないか」と伯父が提案し、私の胸が高鳴る。私の家に家系図なるものがあるとは。
曽祖父の法事を終え、親戚と会食をする席には、普段は会えない従姉妹たちが集まり、久しぶりの再会を祝う華。
「ほら、家系図」
私も従姉妹も初めて見る家系図に目が光る。
巻物状の古びた紙に墨で書かれた、
いかにも格式ある名前が、あみだくじのように並んでいる。名前の一つ一つから遠い昔の人々の息遣いが感じられる。
「ところで」と私は家系図を眺めながら抱いていた疑問を言ってみた。
「この中にお殿様はいらっしゃいますか?」
伯父は怪訝な表情を見せ
「いるわけないがな」
「なんで?」
「家系図=城主の家系じゃないべ」
後ろから聞き覚えのあるため息が聞こえた。