短編: アナウンサーごっこ
「秋と本格的に感じる気温です。
皆さま、暖かい格好でお過ごしください」
僕は首を傾げ
「タツジュン。今のアナウンサーって日本語がおかしくない?」つい、口を滑らせた。
飼い主のタツジュンはジャケットを羽織りながら
「アナウンサーも緊張しているんだって。
キンクマくん。
そんなさ、細かいところを気にしなさんな」
タツジュンは大雑把な笑みを浮かべていたが、
目はテレビに釘付けだ。やはりアナウンサーの言葉に引っかかりがあるようだ。
タツジュンは突然僕に向け
「じゃあ、俺がニュースを読むよ」
リモコンをマイクに見立て始めた。
「こちら、辰己です。
今日は秋の気温が本格的に感じられます。
皆さん、暖かい格好でお過ごしください」
真剣な顔で報告する。
思わず僕は笑ってしまい
「それ、アナウンサーの真似じゃん」
「いや、違うよ。普通はこうじゃね?」
タツジュンはさらに続ける。
「今日は特に猫の散歩が多かったです。
皆さま、お気をつけてください」
「タツジュン、まだ外に出てないじゃん」
フェイクニュースだ!僕は笑いが止まらない。
お腹の皮が引き攣って、声にならない声が出る。
猫が散歩をしていて気をつけるのは、僕みたいなハムスターだけだよ。
タツジュンはぼそっと
「やっぱり、ちゃんとした言葉が大事なんだな」とリモコンに向かってまだ何か言っている。
真面目な顔をして言うものだから、僕はますます笑いが出て、咳き込んでしまった。
「ところで、キンクマくん。
今日はエアコンを付けて出勤した方がよろしかったでしょうか」
「よろしかったでしょうか?変な日本語」
僕はケチをつける。
タツジュンは続けて
「ですが、店のレジではこう言われるんですよ。
スタジオのキンクマくんへ、マイクをお返します」