
Photo by
hidemaro2005
ショート: 失楽園が廃れたのち
事もあろうか、夫がよその配偶者と心中した。
夫とうちの親にどう説明しようか…。
これから鉄道会社へ、損害賠償があるのだろう。
夫が心中してまで守りたかったものより、
世間に屈したのだと思う。
多様性とは上辺だけで、偏見がなくなるのは、
もっと先だと、私は思っている。
葬儀屋に呼ばれ、控え室から出ると、
「大変申し訳ありません」
心中した相手の配偶者、亜美が土下座した。
「中本様の大切なご主人をうちの旦那が…」
亜美も夫に裏切られた、失楽園ぼっち。
亜美が謝罪するのか、私が謝罪するべきか…
「亜美さん、頭を上げてください。
あなたも私と同じ立場よ」
私は床に膝をつき、亜美の肩を抱くと
「ごめんなさい」亜美は号泣した。
「あたしが『気持ち悪い』なんて言わなきゃ」
亜美が言わなくとも、本人達は気持ちのどこかに
後ろ暗さを抱えていた。
勝手に恋して、裏切って、悲劇を抱えて…。
考える気力は、
時間が経つほど、どこか他人事に思えた。