小説:言葉なき祈り 命を抱いて②
僕は幼稚園の頃からイジメられて育ち、友達を持ったことがなく、いつも誰かに悪口を言われ、先生も皆と一緒に僕を除け者にした。
内出血したような紫色の左手を、みんなはゾンビだのなんだのと理由を付けてはイジメた。
辛かったのは、席替えや遠足や修学旅行の班を決める際で
「誰か荷物を引き取ってやれよ」
クラス中で、あんなバイ菌を引き取るわけがないと囁き、ジャンケンになると落胆の声がした。
道徳の時間があったのに、イジメはいけないと先生が教え、イジメのないクラスがスローガンとして掲げられて、僕はクラスにいても居ない。
もしくはイジメとは、周りが僕へしている行為と別のものを指すのかもしれない。
誰も口を利いてくれないので、この疑問は今も僕へ残る。
家庭では、父さんと母さんは変わり者で、
祖父母に会ったことはない。
父さんは単身赴任で不在が多く、母さんはパート先の店長に夢中だった。
きっと、父さんも単身赴任先で母さん以外の女の人を好きになり、家族はあってないものだったのだと思う。
僕の運動会や学芸発表会に来てくれたのは、小学校3年生まで。家族がこない運動会から帰宅すると見知らぬ裸の男がイビキをかいて寝ていたこともあった。
父さんと母さんが結婚して、僕を産んだ。
大人は無意味で残酷なことをして体裁を繕う。
僕なんか産まなきゃ、僕は苦しまなくて済んだのに。
それからは学校へ行かなくなった。
毎日うるさかった母さんもパンやコンビニ弁当を置いて、帰りは遅い。
テレビやゲームをして過ごす日々に飽きた僕は、ゲームで知り合った人と友達になりたいと思った。
それは僕が12歳のとき。
父さんと母さんの離婚が告げられた時期。母さんのお腹には新しい命が宿り、家を出て行く一幕があったからだ。
父さんからの仕送りと母さんが払った慰謝料の一部が僕の通帳へも振り込まれ、僕が計画しなくても食料調達に外へ出る機会が増えた。
学校から帰る人たちの仲が良さそうな姿や公園にいる小さな子どもたちを見るにつけ、孤独が僕を襲う。今更、行ったことがない中学へ行く気力もないので、ゲームで知り合った人と友達になりたかった。
「遊びにおいでよ」
誘ってくれたのは、家から電車で1時間ほどの距離に住む、今の社長である姐さんで、若い姐さんは全国展開しているアジアン雑貨店の社長をやっていた。
大学を中退した姐さんは世界中を旅して回ったんだと僕に話してくれた。
「今の店もね、
うちの父が経営する会社の一部でさ。
いつか独立したら、湊も一緒に働かない?」
僕は父さんに姐さんの話をすると、父さんは何を思ったのか、僕の転校や転出、姐さんが営む会社の本部へ転入の手続きをスピーディーに進めてしまった。
行き場を失った僕は姐さんに事情を伝え、1週間後には姐さん宅へ転がり込み、同時に姐さんが僕の才能を見出してくれた。
「湊は私の話を理解しているようだけど、
もしかして、アンタって頭が良かった?」
学校の成績は4年生までしか分からないけど、体育以外は5だったよ、と話し
「やっぱりね」
翌日、姉さんは沢山のテキストや問題集を買ってきてくれ
「私が仕事をしている間、
気が向けば、これをやってみて」
そうして僕は初めて中学の制服に袖を通し、
中学1年の期末考査を受け、テスト返しまで学校に通った。
友達がいなくても平気だった。
ただテストを受けて、結果だけを知ればいい。
中学へは日にちにすると数週間しか行ってない。
テストは全部満点で、近所の高校へ進学することになった。
姐さんが
「高校までは出ておくのがいい」
父さんに電話すると、簡単にokが出て、
友達がいなくても、姐さんや姐さんの店に来る社員と話ができたら何も不満はなかった。