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掌編: 男の人は軽薄だから

 木枯らし一号が吹き荒れる夕暮れ時。
街灯が薄暗くともり始め、道端の落ち葉が舞い上がる。冷たい風が頬を撫で、私は思わず肩をすくめた。
淳の温もりで少しだけ気持ちが緩む。

「明日も休みでしょ。うちに寄らない?」
淳が笑顔で誘う。
 風が強く吹き、髪が顔にかかる。
私はそれを払いのけながら、彼の目をちらりと見た。

「用事がない場所へ寄らないよ」
私は大袈裟に左手を袖から出し、時計を確認する。

「今日はありがとう。じゃ、ここで」
絡ませた腕を解き、バイバイと手を振る。

 淳の表情が一瞬曇った。
「いつになったら許してくれるのかな」
淳が問いかける声には、風の音にかき消されないような切実さがある。

「何を?身体を?」冗談めかして返すと、淳は慌てて否定する。
「百合香ちゃんの心。俺に開いてくれないじゃん」

「そっかな。私は開いているつもりだよ」
内心では自分を守るための壁を築いていた。

 周囲の喧騒は一層耳へつき、街のざわめきは人々の息吹と混ざる。

 恋愛はいつも同じパターンだ。

 男の人は身体を許すと最初の熱情が冷めて、関心が薄れていく。淳との関係もそんな風になってしまうのだろう。彼の前から消えてもいいと思いつつ、心の奥底では彼だけは例外であってほしいと思う。

 冷風が再び吹き抜け、私は彼の目を見つめる。街灯が彼の顔を照らし、顔に出る不安や期待が私の心を揺さぶる。

 どこかで淳に身を委ねることができるのではないかと感じていながら、しかし一歩を踏み出す勇気がどうしても持てなかった。

#青ブラ文学部
#軋む恋
#山根あきらさん