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連載: 不幸ブログと現実のキミ⑥

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          第六話

 月曜日の午後。

 私は大学の講義を終え、菜摘たちとカフェで集まることにした。真百合のことが頭から離れず、心の中には不満が沸騰している。
 真百合からは反省の色もなく、むしろイベントでの騒動を忘れているかのようだった。

 栗子と陽菜も同じ気持ちを抱えているのをLINEのメッセージで知っていた。
「やっぱり、真百合をどうにかしないと」

 栗子が切り出した。
「彼女に直接聞いてみるのが一番だと思う」
「でも、どうやって?」

「また学食に誘って、話題にするのがいいんじゃない?」陽菜が提案する。

 今日のランチでは真百合はいつも通り明るく振る舞っていた。だが私たちは真百合に潜む真実を探ろうとしていた。

「最近、忙しそうだけど大丈夫?」陽菜が尋ねると真百合は一瞬表情を曇らせたが、すぐに笑顔に戻った。
「うん、ちょっと疲れてるだけ。なんで?」

 ……やっぱり引っかかる。
私は違和感が拭えない。真百合は本当に大丈夫なのか、栗子の言った通りなのか。
「明日、私が聞いてみるわ」



 火曜日は昼から講義だった。
私は大教室の隅にいる真百合の隣に座ると
「私たち心配してることがあるんだ。
ブログや真百合の言動について」

 面倒くさそうにイヤホンを取る真百合は、
何?と聞き返し、少し動揺した様子を見せた。
「由奈は何が心配なの?」

「真百合が他人の経験をブログにしていること。
私たち、真百合のことが好きだけど、それが本当に正しいのか疑問に思ってる」私は続けた。

 真百合の表情が変わる。怒りとも驚きともつかない混乱した顔で、彼女は言葉を発した。
「私の苦労があなたたちに分かるわけないじゃない」

「でも、私たちの痛みを使っているのは事実だよ」冷静に反論した。
真百合は一瞬黙り込み、空気が緊迫した。
彼女は自分の行動を正当化しようとするが、言葉が出てこない。

「私は真百合を責めているわけじゃない。
ただ真百合が本当に大切に思っていることが何かを知りたいだけ」少し口調を緩めた。

観念したのか、真百合は少しずつ口を開き始める。「私もみんなの痛みを理解したいと思っている。
でも、どうすればいいのか」

 私は真百合の弱さを感じ取り、
彼女もまた、誰かの痛みを背負っているのだと。

「私たち、りっちゃんも陽菜も真百合を支えたい。
なっちゃんも同じだよ。だからもっと話し合おう」
私が提案すると真百合は頷いた。



 ひと気が少ない学食で私たちは真百合の過去や彼女が抱えるプレッシャーについて話し合った。

 一月も半ばが来ると夕方の陽は長くなり、自販機で買った飲み物で暖を取りながら真百合の言葉へ耳を傾けた。

 真百合も私たちの話を聞いて自分の行動が他人にどのように影響を与えているかを理解し始め、少しずつ反省の色を見せる。

「私の出来事にしてブログに書いているけど、
気をつけるね。
みんなの経験を無駄にしないようにしたい」と
真百合が言った。

「いや、そうじゃないの。
真百合は自分のことをブログにしたらいいの」

 不思議そうに私たちを見つめる真百合に悪意は感じられず、「なぜ」という表情を浮かべる。
彼女は自分と他人の境界線を分かってないのではないか。

「みんなはね、真百合やここに居るみんなを信用して辛い体験を話したの。話したら少しは楽になるかと思って。慰めてくれるんじゃないかと期待して。
だけど、真百合がブログに書いたら私たちはそれを読んで追体験をしてしまうし、何より、背負っている苦痛を面白おかしく茶化されると傷ついちゃうの」

「でも、みんなの名前は出してないよ。
全部、私の体験談として書いているから個別に迷惑かけてないよ」
素で言っているなら、とんでもない子だな。

 陽菜が
「真百合ちゃん、あのさ。
名前を出さないから迷惑をかけないんじゃなく、
内緒話として、心の中だけに納めてほしいの」

真百合の視線は私や陽菜、栗子を往復し、
伏目になると
「分かった。今度からそうする。
正式な謝罪を公に発表するね」
聞き取れるギリギリの小声だったが、真百合に理解してもらえたようだ。

「ところで話は変わるけど、真百合ってどんな香水を使ってるの?」やっとここで栗子が訊いた。

 真百合はまじまじと栗子の顔を見て
「同じブログ仲間がね、くれたもの。
日本では売ってないから変わった匂いだよね」
今度から匂いも気をつけるね、と笑った。

 友情が試される瞬間を乗り越え、新たな結びつきを築くことができた。

 帰り道、私は真百合と話し合いをせずイベント会場へ乗り込んだことを悔やみながら、しかし別の小さな希望が芽生えているのを感じた。

 真百合との関係は変わるかもしれない。

 でも、私たちの未来にはまだ明るい道が待っているかもしれないと信じて。