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小説: ペトリコールの共鳴 ⑬
第十三話 飼い主の意外な一面
雑木林を堪能した僕らは再び歩き出した。
と、いっても僕はリュックのポケットから外を眺めて飼い主のタツジュンと会話する。国道沿いは屋根が低い家と雑草が生い茂る場所が交互に点在して変わり映えがない。
タツジュンと事件以外でじっくり話するのは最初だと思った。基本、タツジュンは寡黙で返事をして優しくしてくれるが会話は弾まない。
「ねぇねぇ、外食はどこでするの?」
そろそろ僕は疲れてきて、つい言ってしまった。
息を弾ませるタツジュンは「もうすぐよ」
咳払いを挟んで
「とっておきの場所があるんだ。
そこをな、キンクマに見せてやりたくて見ながら飯にしような」
うん……。それにしても日差しが強い。梅雨というものがあるとネット上の天気予報に書いてあった。
遥香は、梅雨とは梅の実がなる時期と雨降りが重なると言っていたのを覚えている。
タツジュンも毎日晴れて、バスタオルがカラカラに乾くと喜ぶほど、最近はずっと晴れ間が続いた。マンションの室内で感じる晴れ間と外の晴れ間は風があるだけ気持ち良い。
贅沢を言うなら時々こうして外へ遊びに行きたい。
「退屈だろう?」タツジュンの方から話しかけてくれた。ううん、と答えたものの、ちょっぴり暇。
「ねぇ、タツジュンってどうして遥香と結婚したの?」
国道はほとんど車の往来がなく、風で揺蕩う雑草が一斉にユニゾンしているようだ。
「そうだな……。ひと言で相性がいいからしか。
俺と遥香は学生時代から付き合っていたと言っているけど、結婚するまでに2回別れてさ。
じゃ、余り物同士がくっついたかと問われると、そうじゃないんだな。
俺に良いことや悪いことがあったとき、最初に報告したいのは遥香で遥香しか浮かばないんだ。
今カノがいても遥香が浮かぶんだよ、そうしなきゃいけないというか、一番感情にしっくりくることを言ってくれたんだ」
「愛があったから?」
タツジュンから僅かに照れ笑いがして
「愛か。後付けすれば愛かな」
「遥香と付き合うきっかけは?」
「う〜ん、俺さ、サッカーやってたのよ。大学もスポーツ推薦で入学してね。
で、サッカーの試合があったときに応援にきていた一人が遥香だったのよ」
「それで?」
「可愛い子がいるなぁって見てたら、遥香も俺を目で追ってて。試合が終わって飲み会に行ったら遥香もいて。今度、飯でも行かない?誘ったら来てくれたのが始まりかな。
遥香は同じ大学でも学部が違って、1年生の頃だったから知らなかったんだな。可愛い子がいても」
僕はこんな上機嫌なタツジュンを知らない。遥香の良さを熱心に語るタツジュンに誠実な人柄が感じられる。