実家から駅まで行く道中には橋があり
まだ若かったわたしは
そこからヌートリアを見るのが楽しみだった
最初は、日本の田舎にビーバーがいる
大喜びで母へ伝えると
「ヌートリアね」
ヌートリアはビーバーの愛称かと思った
珍しい動物を発見して、息を弾ませ帰宅し
既にわたしの知らないところで
ヌートリアという、意味不明な愛称で呼ばれている
自分だけが知らなかったのが悔しかった
ビーバーを発見してから
橋から見る川の光景が楽しみで
たまにビーバーが石の上から
こちらを見上げると、歓喜が込み上げる
ビーバーって可愛いと芯から思った
昔の広島は、今のように豪雨災害になるほどはなく
しかし、台風が近づいてくると雨を伴い増水した
橋から1メートル下は黒に近い茶色の濁流
ビーバーは流されてないか
この川に住む鯉はどうしているか気が気じゃなく
休校を良いことに、雨が止むと愛犬を連れ
橋まで駆けって様子を見に行った
折れた大木がベルトコンベアで運搬されるように
流れに乗ったまま、下っていく
この川の下でビーバーは隠れているのか
ラッコのように水草を腹に巻いているかと想像した
あまり様子を眺めると、軽い眩暈がし
早々に引き上げ、安否を願った
暫くビーバーの姿は見受けられなかった
高校生になり
ビーバーではなく、愛称でもなく
ヌートリアは巨大ネズミだと知った
ネコより大きめの
ネズミが近所にいたのが、ときめいた
春、桜のころ
どんな冴えない橋や川にも
花あかりと水面は相性良く、映える
花の浮き橋に佇むヌートリアも
雅な動物に見えて、いとおしかった