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飛躍のための助走〜創意に富む短編集、平野啓一郎著「透明な迷宮」
平野啓一郎は、自身のサイトで2008年の「決壊」(新潮文庫)から2012年の「空白を満たしなさい」(講談社文庫)までを、第3期(前期文人主義)としている。彼の新刊「富士山」(新潮社)を読む前に、第3期の作品を読了しようと考えた。
ようやく終了したので、さて「富士山」と思ったのだが、第4期(後期文人主義)に位置づけられている「透明な迷宮」(新潮文庫)が未読だった。
平野啓一郎は、2015年から2016年1月に毎日新聞で「マチネの終わりに」(文春文庫)を連載、2018年に「ある男」(文春文庫)、2019年から20年にかけて「本心」(コルク)を新聞連載、充実した創作活動期となる。
「透明な迷宮」は、それらに先立つ2013年から2014年に発表された短編を集めた一冊である。それぞれの短編の初出は以下の通りである。(平野啓一郎公式サイトより)
消えた蜜蜂(『早稲田文学』2014年秋号)
ハワイに捜しに来た男(2013年11月、伊勢丹新宿店でのイベントで配布)
透明な迷宮(『新潮』2014年2月号)
family affair(『新潮』2013年10月号)
火色の琥珀(『文學界』2014年3月号「火を恋う男」改題)
Re:依田氏からの依頼(『新潮』2013年7月号)
連作短編として発表されたものではないので、統一感はない。それは、決してネガティブな意味ではなく、自由な発想で、多彩な世界が描かれている。
一方で、各編に通じる何かがある。どの短編も、心をざわつかせる。解決しきらない謎がある。不安な気持ちが残る。
表題作「透明な迷宮」は、ハンガリーの首都ブダペストで、偶然出会う男女の物語であるが、第3期の「かたちだけの愛」で提示された、「本当の愛とは」というテーマが継続しているようにも読める。
「ハワイに捜しに来た男」は、自分に似た男をハワイに捜しに来るという小品だが、これは「ある男」にも通じるスケッチのようにも感じる。
このように、短編集「透明な迷宮」は、前期分人主義で達成したことを、さらに開花させるための助走のような作品集のような気がもする。
もちろん、各編に散りばめられた様々な設定は、創意に富んでおり、この1冊だけを手に取っても、素晴らしい読書体験が得られることも保証しよう
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