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シューベルト交響曲第5番&「未完成」〜スコットランド室内管弦楽団の新譜

昨日の「冬の旅」に続いて、シューベルト(1797ー1828年)です。今回は新譜紹介および身内の宣伝です。

私の次女は、エジンバラを拠点とするスコットランド室内管弦楽団(Scottish Chamber Orchestra、以下SCO)でバイオリンを弾いていることは、これまでも何度か言及しています。

このほど、新しいCD配信をリリースしました。シューベルトの交響曲第5番&第8番、指揮は首席指揮者のマキシム・エメリャニチェフです。

シューベルトの交響曲第5番変ロ長調は、作品番号D485、「冬の旅」はD911ですから、初期の頃の作品であることが分かります。「冬の旅」は1827年、死の前年の作品。交響曲第5番は1816年、19歳の時の作品です。

もっとも、シューベルトは31歳という若さで亡くなったので、たかだか10年程度の違いではあります。しかしながら、梅毒感染、死への恐怖といった感情は持ち合わせていなかった頃の作品です。

若き日のシューベルトの瑞々しさがあふれているような、交響曲第5番はそんな作品です。典雅で耳にすっと馴染む音楽。同じオーストリアに生まれた大いなる先達、モーツァルト(1756ー1791年)に連なるような作品。二人の夭折の天才が、邂逅したように感じます。

交響曲第8番、第7番とされることもありますが、「未完成交響曲」ロ短調D759。第5番の作曲から、6年後、1822年の作品です。冒頭のなんとも不安感をかき立てられるチェロの音、バイオリンがを続き、木管の旋律。これを聞くと、「第5番からの6年間になにがあったの?」と聞きたくなります。

第5番にモーツァルトとの邂逅を感じたことの対比で言うと、「未完成」はベートーヴェン(1770ー1827年)の影が感じられます。ベートーヴェンはシューベルトから見ると親世代、同じウィーンで活躍、シューベルトにとっては意識せざるを得ない存在だったでしょう。

以前に紹介した「ごまかさないクラシック音楽」(新潮新書)によると、ベートーヴェンは偉大なる創業者社長。<その基本構図は「悩む人間の姿がいかに悩みを克服するか」>(同書より)。シューベルトの音楽も、そうした方向に発展したのでしょう。

ベートーヴェンは、古典派からロマン派へと音楽を発展させるわけですが、「ごまかさない〜」には面白い表現があります。ベートーヴェンとロマン派の違いとして、<あの“終了感“です。(ベートーヴェンは)どんな曲であれ、必ず作品を「完成」にまでもっていく>。

創業者が「完成品」を大量に市場に出してしまったわけで、“偉大なる父“を意識するシューベルトは思い悩んでことでしょう。

「ごまかさない〜」で岡田暁生はこう表現します。<偉大な創業社長の後継者として、先代の事業を継承発展させなければならない、どもうまくいかない、悩むーこれがロマン派だとすら言える>。

なぜ「未完成」かは諸説あるようですが、この音楽を聴いていると、シューベルトはベートヴェンに近づこうとします、でも思うのです。「このまま完成させても、父あるいは社長を超えることはできない。だったら、“未完成“でいいじゃないか。それも一つのアプローチだ」。

こうして“終了感“、決着をつけないスタイルによって、シューベルトは美しくかつ感情の発露を感じさせる音楽を生み出したのではないでしょうか。人の気持ちに終わりはないですもんね。

CDの最後は、バイオリン独奏と弦楽オーケストラによる、ロンド イ長調D438。チャーミングなこの曲の独奏は、残念ながら次女ではなく、首席バイオリン奏者のStephanie Gonleyさんです。

SCOの素敵な演奏、是非お楽しみ下さい!


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