アガサ・クリスティー著「予告殺人」〜名作かそれとも・・・
時折、ふとアガサ・クリスティーのミステリーに触れたくなる。丁度、Amazon Audibleに「予告殺人」の新訳(ハヤカワ・クリスティー文庫、原書は1950年発行)が入っていた。読んだこともあるように思ったが、購入した電子書籍を検索してもヒットしないので、スタートした。
出だしが好きである。イギリスの田舎、チッピング・クレグホーン村の新聞配達員の様子が描写される。各家庭の注文に従って、毎朝《タイムズ》《デイリー・テレグラフ》といった全国紙を配達する。そして、金曜日にはほぼすべての家に週刊の《ガゼット》を届ける。地元で編集されているローカル紙である。
イギリス人は新聞好きだと思う。通勤電車ではほとんどの人が新聞を読んでいるし、オフィスのロビーには、上記の新聞に加え《Financial Times》紙が置かれている。私がロンドンを離れ十数年が経つが、今はどうなのだろう。
この村の住民も同様に新聞好きのようだが、金曜日は全国紙には〈ちらっと目をやるだけで、《ガゼット》をそそくさと広げると、地元のニュースをむさぼるように読んだ>(「予告殺人」より、以下同)
地元のニュース、〈投書欄(田舎の生活ならではの激しい憎悪や確執が渦巻いていた)>、そして個人広告欄。<狭い地域に住む人々の好奇心をくすぐるものばかりだった>
10月29日に掲載された広告の一つは次のようなものだった。
<殺人をお知らせします。十月二十九日金曜日、午後六時半にリトル・パドックスにて。お知り合いの方々にご出席いただきたく、右ご通知まで。>
田舎村の様子が生き生きと描写され、平和の中の毒が示唆される。いかにもクリスティーという感じの幕開けであり、この導入部だけでも読む価値がある。
リトル・パドックスには、女主人レティシア・ブラックロック、その友人や遠い親戚、下宿人、メイドと多くの人が居住している。第二次世界大戦の記憶が、まだはっきりと残っている時代である。
実は、読みながら、やはり読んだことがあるような気がして、英語版の電子書籍を検索すると、やはり「A Murder is Announced」があった。原書を読んでいたが、すっかり忘れていた。こんなことばかりである。
とは言え、内容はほとんど記憶に残っていないので読了した。
いかにも本格ミステリーらしい仕上がりで、ミス・マープルがロジカルな推理を最後に披露する。クリスティー節が全開、大満足とはいかないまでも、面白く聴き終えた。ただし、登場人物の数が多いので、その点は、行きつ戻りつ、そして登場人物一覧を参照しながらではあった。
個人的には、クリスティーの作品中、中の上という感じだろうか。
英語版を読んでいたということは、おそらくクリスティー作品の中でも評価が高いから手に取ったのだろう。調べてみると、やはり1982年に日本クリスティ・ファンクラブが実施した投票で第4位、アガサ・クリスティも自身が選ぶベストテンの一つに選んでいた。(リストはこちら)
なるほど、なるほど。やはり、名人芸に対して評価が高い。
さらに、クリスティー作品を読んだら必ず参照している、霜月蒼著「アガサ・クリスティー完全攻略(決定版)」(ハヤカワ・クリスティー文庫)を開いてみた。
著者は各クリスティー作品に短評を書き、星五つを満点として採点している。
★ ★ ★ ★ ★ 未読は許さん、走って買ってこい
★ ★ ★ ★ ミステリ史上の傑作
などと、定義されている。
さて、「予告殺人」はどうか。なんと、星二つである! なお、二つ星の定義は、<クリスティー好きなら問題なし>である。ただし、短評の冒頭には<江戸川乱歩の昔から名高い名作である>と書かれている。
これ以上は、興を削ぐのでやめておく。あなたの評価はいかに?
もう少しクリスティー作品をと思い、「五匹の子豚」を聴き始めたら、またも既視感が。調べたら、翻訳版を読んでいた。やれやれ〜なお本作は五つ星に輝いている