映画「八犬伝」の“虚と実“〜曲亭馬琴・葛飾北斎・鶴屋南北
「八犬伝」と聞いて、まず私が思い浮かべるのは、NHKで放送された「新八犬伝」である。「チロリン村とくるみの木」、「ひょっこりひょうたん島」などから続く、人形劇シリーズである。
2年間放送されで、人形は辻村ジュサブロー作だった。熱心に観ていたわけではないが、「仁義礼智忠信考悌、いざとなったら珠を出せ♫」という主題歌、「我こそは玉梓(たまずさ)が怨霊!」というセリフが頭に残っている。
家に子供向けの「南総里見八犬伝」の本があれ、何度か読もうとトライしたが読了できなかったように思う。それでも、安房の国、里見家ゆかりの八人の犬士、それぞれ“仁“の珠、“義“の珠、“智“の珠と、違った八個の珠を持っている。この八犬士が玉梓らの敵役と戦う物語だとは認識していた。
そんな「八犬伝」の映画が公開されている。立川談春が独演会で何度か言及していたので、ちょっと気にしていた。私が観に行こうと考えるタイプの映画ではないのだが、映画の構造が「八犬伝」という物語“虚“の部分と、作者である曲亭・滝沢馬琴と葛飾北斎の交流を軸とした“実“の物語が交差するものになっているということで、ちょっと観てみようかと思った。
さらに、原作は未読だが山田風太郎である。これは面白いかもと。なお、立川談春は鶴屋南北役で出演している。
作品の出来、平日昼間の回にもかかわらず、8割型の入りになっていることが物語っている。
ここから、若干のネタバレ、感想なのでご注意を。
知らなかった。「南総里見八犬伝」は、滝沢馬琴が長年にわたって書き続け、最後は自身の体調と闘いながら仕上げた物語であった。役所広司が馬琴を演じ、彼を支える北斎を内野聖陽が演じる。馬琴の妻に、寺島しのぶ、息子が磯村勇斗、その嫁が黒木華。談春の南北も重要な役回りである。
このメンツで見応えある芝居にならないはずがない。
自作と格闘する馬琴を描きながら、「八犬伝」の“虚“の世界が挟み込まれる。玉梓を演じるのは、栗山千明である。
よく出来た映画だと思う。ヒットしているのも理解ができる。
敢えて書くのだが、“実“のドラマが重厚な分、“虚“の部分が薄っぺらく感じる。それは意図したものなのだろうか。
山田風太郎、馬琴らの系譜とも言える。原作読んでみようか