森山未來というパフォーマー〜Abema映画「アンダードッグ」
森山未來を初めて認識したのは、2004年の舞台「スター誕生」だった。日本音楽事業者協会が、記念事業として製作したもので、仲間由紀恵、今井絵理子、島谷ひとみが主演し、加藤茶、布施明、中尾ミエといった豪華なメンバーが共演した。過去の名曲が散りばめられたミュージカルで、脚本・演出はラサール石井。詳しくは、こちらのブログに上演曲が記載されている。私は、日本でもこんな楽しいミュージカルが出来るのだと、感心した。 そこに出演していたのが森山未來。私は、前年に長いロンドン駐在から帰国しており、彼のことは全く知らなかった。歌、踊りに演技、若い才能を感じた。 その後、2011年TV版「モテキ」(満島ひかりが良い!)さらに、その映画版で彼に楽しませて貰った。(ついでに久保ミツロウの原作マンガも!)特別にフォローしていたわけではないのだが、2013年NHKのドラマ「夫婦善哉」で尾野真千子との共演を観る。自堕落な若旦那、主人公の柳吉が見事にはまっていた、随分演技の幅が広がったと、今後が楽しみだった。 そして、2021年東京オリンピックの開会式で、ダンサーとしての顔を見せ、世界に向かってパフォーマンスを披露した。 オリンピックの前年、2020年に森山未來主演の映画がAbemaをプラットフォームにリリースされた。それが「アンダードッグ」である。 監督は、「百円の恋」や「全裸監督」の武正晴。題材はボクシングとあって、観たかったのだが、前後編計で4時間半という長さもあり劇場公開は見逃し、配信はAbemaプレミアムのみでチャンスがなかった。それが、ようやくWOWOWで放送されたので録画していた。 “アンダードッグ“とは、敗者・負け犬である。社会不正などの犠牲者・弱者という意味もある。森山未來演じるボクサー末永晃は、かつて将来を嘱望されたが、今では“負け犬“。ボクシングを続けながら、風俗店の運転手で生活費を稼ぐ。妻との関係も良好ではない。 末永の周りでは、様々な“敗者“がうごめく。末永の父を演じるのは柄本明、登場する場面は多くないが、流石の存在感である。 そんな彼に絡んでくるのは、有名俳優(風間杜夫)を父にもつ芸人宮木瞬(勝地涼)。そして、何故か末永にまとわりつく、若いボクサー(北村匠海)。末永、そして二人の若者にとってボクシングとは何なのか。彼らは、ボクシングを触媒に化学反応を起こすのか。 森山未來は凄い! ピークを過ぎ、ギリギリのところで人生に留まっているボクサーが、彼の中に宿っているかの如くである。元々そうなのだろうが、ボクサーの体に作り上げ、ファイティング・シーンは、あのロバート・デ・ニーロの「レイジング・ブル」を凌駕するような迫力と、悲壮感が漂う。 これ以上は、差し控えるが、森山未來というパフォーマーを堪能できる映画である。 なお、「アンダードッグ」には全8話の配信版もある。こちらも見たいのだが、劇場版(DVDあり)同様Abemaプレミアムのみでの配信のようだ。「アンダードッグ」はAbemaが制作した初めての本格映画作品のようだ。良い仕事をしたと思うが、今後も続けるのだろうか。Netflixなどに対抗できる日本の勢力はできるのだろうか