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シリーズ第四作は洗練されたスリラー〜M.W.クレイヴン「グレイラットの殺人」

ふとしたきっかけで読み始めた、M.W.クレイヴンの刑事“ワシントン・ポー“シリーズ。各作品単体での面白さに加えて、巧みに積み残しと、新たなキャストを加える仕掛けによって、先を読ませる。

翻訳されている中では最新作「グレイラットの殺人(原題:Dead Ground)」(ハヤカワ・ミステリ文庫)を、これまで通りAmazon Audibleで聴読した。

ショーン・コネリー、ダニエル・クレイグら、ジェームス・ボンド俳優の面をつけた男たちが貸金庫に押し入る。彼らの目的は。。。到着した警官が目にしたのは、<床で冷たくなった死体と、それを見おろすラットの置物だった・・・>(「グレイラットの殺人」より)

場面は変わって、イギリス・カンブリア州の都市カーライルの法廷。ワシントン・ポーはそこに出廷していた。ポーは、イギリス国家犯罪対策庁(NCA)の重大犯罪分析課(SCAS)に所属する。ポーは、湖水地方のハードウィック・クロフトに住んでいるが、その住居は国立公園の拡張区域に含まれており、ポーが施した改修の数々が違法だと訴えられている。前作以前から積み残されてきた問題の一つだ。

ポーを救うべく登場するのは、いつもの通り、同僚の“天才“ティリー・ブラッドショーだ。名コンビがポーの住居問題を解決するかと思いきや、二人は新たな犯罪捜査に引き込まれる。

前作でポー一座に加わった、FBIのメロディ・リーが登場するのはお約束だが、さらにMI5(Military Intelligence 5〜イギリス保安局)も登場、役者はそろった。なお、ジェームズ・ボンドの所属機関のモデルは国外担当のMI6)。

前三作は、猟奇的な殺人を取りあげ、それがポー・シリーズの特徴にもなっていたのだが、私の妻などはそれ故、シリーズ途中で放棄した。この「グレイラットの殺人」はそうした側面がなくなり、英国スリラー小説の王道とも言える、洗練された仕上がりになっている。

本作は、2022年の英国推理作家協会主催、007生みの親の名を冠した“イアン・フレミング・スティール・ダガー賞“を受賞している。

それを盛り上げるのは、これまでの作品同様、座組の役者陣の個性。かなりの数の登場人物だが、それぞれの個性を書き分けるのは、クレイヴンの真骨頂である。例によって、積み残しの謎を秘めたまま、新たな課題を示唆して次作につなげていく巧妙さは、本作でも同様である。

イギリスでは、すでに第五作「The Botanist」が発表されており、今年中には第六作も発表予定のようだ。本書の“著者あとがき“に、本シリーズの生い立ち、本作に至る過程が簡単に記されているが、こうした人気シリーズの舞台裏を垣間見るようで興味深い。

ポーが抱える究極の課題は、いつ解決されるのか。新作を待とう


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