エジンバラからロンドンの旅(その8)〜私の居場所ロイヤル・オペラで「カルメン」
(承前)
ロンドンに来たからには劇場街ウエスト・エンドに行きたい。特に、ロイヤル・オペラ・ハウス。ただ、観たい演目に当たるかどうかは運次第。今回の滞在時の予定を観るとビゼーのオペラ「カルメン」の上演がある。早々にチケットを取っていました。ちなみに、値段は演目によって変わりますが、「カルメン」の場合、天井桟敷立見の£13(2500円程度)から、£245(47000円程度)まで、かなり細かく分かれています。私が取ったのは平土間席(Stall)の後方サイド席で£172でした。ロイヤル・オペラは6月に来日しますが、チケットは22000〜72000円です。
前回来たのは十数年前、久方ぶりに広いホワイエでシャンパンを飲んでいると、こうした楽しみを含めて“ハレの場“であることを、改めて感じます。客席につくと、自分の居場所という思いを強くし、10年住んだロンドンがそれなりに身体に染みついていると思ったのでした。
「カルメン」のあまりにも有名な前奏曲、これから始まるドラマを感じさせてくれ、心が躍ります。指揮はAntonella Manacorda、マーラー・チェンバー・オーケストラの創設メンバーで、8年コンマスを務めた方です。今回の演出はDamiano Michieletto、「カヴァレリア・ルスティカー/道化師」でオリヴィエ賞を受賞しました。
1875年初演の「カルメン」はフランス・オペラです。舞台はスペインのセビリア、闘牛も登場しますから、スペイン色濃厚なのですが、上演はフランス語。作曲家のビゼーはフランスの作曲家ですし、原作もやはりフランスのメリメ。
タイトル・ロールのカルメン役は、ロシア出身のメゾ・ソプラノ、Aigul Akhmetshina(アイグル・アクメトチナ)。初めて聴いたのですが、これがびっくりするほど素晴らしかった。プログラムを見ると、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場(MET)、バイエルン国立歌劇場など各地でカルメンに主演しており、当たり役になっています。
一声を聴くだけで、これはただものではないと思いました。METはライブ・ビューイングとして、映画館でオペラの演目を上演していますが、「カルメン」は今シーズンのライン・アップに入っていました。3月が上演期間でしたが、またアンコール上映やWOWOWの放送もあるのではないでしょうか。
「カルメン」というオペラは、カルメンに翻弄されるドン・ホセ、ドン・ホセの婚約者ミカエラ、そしてカルメンの恋人、闘牛士エスカミーリョが織りなすドラマ。今回の演出では、舞台は現代に移されています。そして最大のポイントは、ドン・ホセの母親という、通常はステージには登場しない人物が冒頭から不気味な姿で舞台上に登場する点です。
プログラムも参考に書きますが、ドン・ホセというのは普通の市民です。まともな婚約者ミカエラがいるのですが、親の敷いたレールを行くことに抵抗があり軍隊に入っています。そんなドン・ホセのもとに、ミカエラは彼の母親からの手紙と仕送りを持って来ます。ドン・ホセという男は、完全に自立することができていません、母とミカエラという家族・伝統・未成熟といった世界から抜け出すことができない一方で、カルメンに象徴されるアウトローの世界にも惹かれています。
そんなドン・ホセを母親は度々ステージに登場し見つめながら、不吉な将来を暗示するのです。もちろん一言も発しません。
ドン・ホセを演じたのは、ポーランド出身、ベテランのテノール、Piotr Beczala(ピヨートル・ベチャワ)。METでもドン・ホセを歌っています。カルメンに比べると、ちょっと影が薄いのですが、この演出には合っているかもしれません。
2009年にロイヤル・オペラで「カルメン」を観ているのですが、その時はエリーナ・ガランチャとロベルト・アラーニャという2大スターががっぷり四つというステージですが、それに比べるとカルメンに比重がグッと置かれた印象になりました。
ミカエラはウクライナのOlga Kulchynska、これがロイヤルのデビュー、エスカミーリョはKostas Smoriginas、リトアニアの歌手。
カーテン・コールでスタンディング・オベーションしながら、オペラってやっぱりいいなと今更ながらに感じました。連れて行った義妹が、「オペラ好き!」と言ってくれたのが、満足度を高めました!
明日はミュージカル「Hades Town」です
続く
*こちらはMETの公演から
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