“講談はダンティズム“〜神田愛山芸道五十周年三夜連続独演会(楽日)
神田愛山という講談師、魅力的である。男の色気があり、口跡がよい。そして、すこーし危険な香りがする。
1953年の70歳、今年芸歴五十周年ということで、記念の講談会をいくつか開催している。今回は、内幸町ホールで三夜連続、ゲストは初日 瀧川鯉昇、二日目 柳家三三、楽日が柳家喬太郎、私は最終日に足を運んだ。
三夜とも前講は田辺いちか、出し物は「山内一豊と千代」。賢妻が名馬を夫にもたらしたという、有名な美談。いちか始め、中堅・若手女流講談師の活躍は頼もしい。
続いて登場した神田愛山は、「清水次郎長伝〜飯田の焼き討ち」。若い頃から読んできた演目だと思う。愛山先生に侠客物はピッタリである。神田伯山は多くのネタを愛山から教わっているが、これも相伝されている。
中入り後登場した柳家喬太郎。6月上席は、新宿末廣亭の主任だったが、この日は愛山の会を優先したとのこと。
喬太郎と愛山は、2002年から二人会を開催している。十歳下の喬太郎に声をかけた理由として、愛山は「同じ匂いがする」と言ったそうだ。雑誌「東京人」の2023年2月号に二人の対談が掲載されているが、そこで愛山は、「喬太郎君を目当てにやってくるお客さんに僕の新作をぶつけて、どういう反応があるか確かめてみたかった」と話している。
喬太郎が演じたのは、彼の新作「銭湯の節」。かつて、銭湯で聞こえた浪花節を懐かしむ祖母に、孫娘がそれを再現しようとする。演芸のジャンルをクロスオーバーさせる、この会に相応しい一席。喬太郎のセンス、芸達者さが光った。
最後に愛山が読んだのが、「赤穂義士銘々伝〜大高源吾」。“忠臣蔵のテーマは‘別れ‘“とする、神田愛山が記念すべき三夜の最後に持ってきたのは“めでたい別れ“である。詳細は、かつて神田伯山の高座に触れた際に書いたのでそちらに譲るが、素敵な読み物である。
四十七士の一人 大高源吾と、俳句の宗匠 宝井其角の友情と別れ。脇役として登場する松浦のご隠居。三人三様の格好良さであり、まさしく愛山が言うところの“講談はダンディズム“を体現している。
感動的な内容に加えて、愛山の口調が心地よい。前述の対談で、愛山は「基本は七五調で日本語を綺麗に聴かせると言うのが、講談の大きな魅力です」と話す。まさしく、それである。
なお、古希を迎えた愛山だが、CDデビュー。2席を収録したアルバムがソニー・ミュージックから発売された。
自身のHPで、愛山はこう書いている。
<この「神田愛山芸道五十周年三夜連続独演会」では、わたしがこの世に残したい読み物をジャンル別に各回二席ずつ申し上げることにしました。講談をお聴きになられる際のひとつの指標となれば幸いです>
SNS等で収集した、各日のネタ帳を記録しておく。
神田愛山芸道五十周年三夜連続独演会
6月4日
田辺いちか 羽子板娘
神田愛山 鉢の木
瀧川鯉昇 千早ふる
神田愛山 三十三間堂誉の通し矢
6月5日
田辺いちか 長短槍試合
神田愛山 大田蜀山人
柳家三三 締め込み
神田愛山 講談私小説短篇集〜ベラ
6月6日
田辺いちか 山内一豊と千代
神田愛山 清水次郎長伝〜飯田の焼き討ち
柳家喬太郎 銭湯の節
神田愛山 赤穂義士銘々伝〜大高源吾
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