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なぜ人は物語を書くのか〜スティーヴン・キング著「ビリー・サマーズ」

週刊文春のミステリーベストで2位、宝島社の「このミステリーがすごい!」でも2位、気になっていた、スティーヴン・キングの「ビリー・サマーズ」(文藝春秋)を年越しで読了した。

紙の本だと2段組の上・下2巻は、期待通りの読み応えだった。

ビリー・サマーズは、イラク戦争に従軍した元海兵隊員。今は、凄腕のスナイパー(狙撃手)として、殺し屋業に従事する。ただし、“悪者“しか標的にしない。裏の稼業から引退しようと考えるビリーだが、破格の報酬で最後の仕事を引き受ける。

暗殺すべき街に潜伏するため、ビリーに与えられた表の顔は小説家。見知らぬ土地で、執筆に専念するライターである。一方でビリー・サマーズが雇い主らに見せる顔は、“お馬鹿なおいら“。そして、本当のビリーとは。。。。

前半かなりの部分は、淡々と物語は進行する。ただし、ここで見せるビリーの顔が印象的である。この積み重ねが、ビリー・サマーズの本質を表現し、ビリーに加えて魅力的な人物たちが動き出す怒涛の後半へとつながっていくのだ。

ミステリーの常で、紹介は非常に難しいが、ランキング2位に相応しい、巨匠キングならではの小説になっている。

スティーヴン・キングは、新刊が出るといつも気になっているのだが、ほとんど読めていない作家。本書のみならず、すべて大書で、踏み出すのには勇気がいる。「11/22 /63」(文春文庫)は、衝動的に原書を買ったが読めずじまいである。この「ビリー・サマーズ」を読むと、「これじゃあ、いけない」と思ってしまう。

キングは1974年に「キャリー」(新潮文庫)でデビュー、昨年で50周年。おそらく、史上最も成功した小説家の一人と言えよう。それを記念して、電子書籍では無料の「S・キング50周年たっぷり試し読み『ビリー・サマーズ』ガイドブック」(文藝春秋)が配信されている。「ビリー・サマーズ」が試し読みできると共に、訳者・白石朗と担当編集者・永嶋による対談「変化球と思わせて、最後はどストライクな感動作!」が収録されている。いきなり読むことに躊躇する方は、本書を参考にするのも良いかと思う。

「ビリー・サマーズ」には、作家に扮するビリーが実際に執筆する“小説“が重要な小道具になっている。そこには、キングの小説家としての姿が多少なりとも投影されながら、「なぜ人は物語を書くのか」という本質的な問いが含まれているように感じる。

「ビリー・サマーズ」は、確かに上質のミステリーである。しかし、そこには“ミステリー“という言葉では表しきれない、小説の深み、面白さ、構造的な複雑さが内包されている。

さすがスティーヴン・キング、やはり見過ごしてはいけない作家である


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