本の世界を広げてくれた〜「本の雑誌」の元発行人、目黒考二/北上次郎さん ご逝去
昨日(1月26日)の朝刊の訃報欄を見て驚いた。目黒考二さんが、76歳でお亡くなりになった。日経新聞木曜日夕刊の書評、北上次郎名義をしばしば目にしており、昨年の12月22日にも、“回顧2022“として、“時代小説・ミステリー…目利きが選んだ「3冊」はこれだ!“という記事に寄稿されていた。それだけに唐突感があった。
ご存じない方も多いかと思うが、朝日新聞には<本の雑誌社前社長、文芸評論家>とある。
「本の雑誌」という雑誌、Wikipediaによると1976年創刊、不定期刊行だったが、1979年から隔月刊化、その頃から私は買い始めた。高校から大学に進む時期、“ミニコミ“誌、雑誌の世界に興味が湧いていた。その時に飛び込んできたものの一つが「本の雑誌」である。
編集人に椎名誠、発行人が目黒考二。表紙のイラストや、カットと共にエッセイを書く沢野ひとし。少し離れた位置から関与する弁護士の木村晋介。自分たちの好きな執筆者を集めて、本にまつわる様々な話題が取り上げられた。独立性を維持するために、出版関係の広告は取らなかった。そうした既存のメディアとは一線を画す姿勢と、“哀愁の町に霧が降るのだ“的な空気が好きだった。
「本の雑誌」は、時代の落とし子的な存在でありつつ、その核である面白本の紹介という分野において優れた存在であり、そのことがこれまで雑誌を存続させてきた。私は「本の雑誌」に出会うことにより、本の世界がこれほどまでに楽しいものであることを知る。
数々の書評・ブックガイドが掲載されたが、その中心は北上次郎こと目黒孝二だった。北上次郎名義での書評家活動、その守備範囲は、多岐におよぶが、評価の軸は“面白い“かどうかにつきる。
こうした精神で編まれたものが、「別冊本の雑誌 ブックカタログ1000」だった。確かPart3まで出版されたこの別冊本は、様々なテーマを切り口に面白本が紹介され、私はこれを参考に多くの本を読み散らかした。(残念ながら現物はもう手元にない)
その後、定期的に「本の雑誌」を買うことはなくなっても、北上次郎の名前がある書評を見つけると目を通し、自分の感性に合致するかどうかチェックしていた。
最近で言えば、遠田潤子作品に出会い、愛読するようになったのは、北上次郎/目黒考二のおかげである。
残念である。これから出る本は、目黒考二に読まれることがない。可哀想だ。それでも、目黒考二チルドレン、北上次郎チルドレンが、その遺志をついで本の紹介をしてくれることだろう。
尚、上記の日経新聞の記事で、目黒考二/北上次郎が推した3冊は以下である。私は、いずれも未読。これらを手に取ることが、本の世界を広げてくれた方への供養となるに違いない
① 尚、赫々(かくかく)たれ 立花宗茂残照 羽島好之著
② 素数とバレーボール 平岡陽明著
③ 捜索者 タナ・フレンチ著