ジェームズ・サーバー「世界で最後の花」〜“第十二次世界大戦“はあるのか、いやあったのか
<みなさんもごぞんじのように、第十二次世界大戦があり 文明が破壊されてしまいました。>
ジェームズ・サーバーの「世界で最後の花」は、こう始まります。
絵本と言ってよいと思いますが、新訳として世に出した村上春樹は、“大人のために書かれた“と考え、表紙には「絵のついた寓話」と入れています。
ジェームズ・サーバーと言えば、雑誌「New Yorker」に書かれた、シンプルな線のイラストの印象ですが、小説や絵本も上梓していました。この本の「訳者あとがき」で、ダニー・ケイが主演した映画「虹を掴む男」の原作者だったことを知りました。
「世界で最後の花」の原書は、1939年11月に発刊されました。村上さんによると、<この日付はきわめて重要な意味を持ちます。というのはその年の9月には、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発しているからです>。
サーバーは、世界の平和を願ってこの本を出したわけですが、結果はご存知の通りです。それでも、作者は大戦を乗り越えて、二度と戦禍が不幸をもたらさないことを願ったでしょう。“最後の花“に希望を託すような世界には、してはならないと。
結果、これまたご存知の通りです。
1939年11月が意味を持つのと同じように、村上春樹が2022年にこの作品を新訳し、今また世に出していることも、当然にして意図が感じられます。
印象的なページはたくさんありますが、一つご紹介しましょう。“第十二次世界大戦“に見舞われた世界は、こうなりました。
<本も、絵画も、音楽も、地上からなくなりました。
人間たちはなにをするでもなく、
ただそのへんにぼんやり座り込んでいました。>
全て、不要不急のものかもしれません。しかし、それらがなくては、人は生きていけないのです。
日本は幸いにして平和を享受しています。それでも、世界を俯瞰すると、必ずしも平和とは言えません。もしかしたら、“第十二次大戦“は起こっているのかもしれません。数えようによっては。
今、大人も子供も手に取るべき本、「世界で最後の花」を村上春樹は復活させざるを得なかったのです
そう言えば、サーバーの短編集「傍迷惑な人々」(光文社古典新訳文庫)を買っていたのを思い出しました。これも読まないとです