芸歴四十周年「立川談春独演会2024年」6月22日昼(その2)〜「妾馬」に泣かされた
(承前)
中入り後、黒紋付きで登場した立川談春、私のお目当て「妾馬(めかうま、めかんま)」に入る。談春のこのネタには縁がなく、聴けていなかった。
冒頭は、長屋で大家と八五郎の会話の場面。八五郎はなぜか大家さんの黒紋付きを着せられている。談春の着物と落語の場面がシンクロ、このオープニングは談春ならではの工夫ではないか。
八五郎の妹お鶴は、お殿様に身染められ、お城に奉公することとなる。お殿様の名前は、赤井御門守(あかいごもんのかみ)、前半の「粗忽の使者」につながる。
お鶴にはお殿様のお手がついて懐妊、男の子を出産する。妾腹とはいえ、初の男子、お世とりを産んだお鶴は城内で出世とあいなる。そのお鶴のはからいで、八五郎は登城、赤井御門守にお目見えとなる。そのために、八五郎は黒紋付きを着せられているのだ。
気の進まない八五郎だが、お目録(金子)をもらえるというので、城内での振る舞いを教わって城へと参上する。こうして、城内でのドタバタ、笑の多い演目でもある。
後半は、グッと空気が変わり、八五郎が兄弟愛、母親への愛情・思いやりを吐露する人情噺的な展開。前半のマクラで、談春は自身の母について語った。そのことも思い出され、余計に胸が熱くなり、泣けた。会場も、シンとし“人情噺“の空気に変わった。
この日の「妾馬」においては、八五郎は演者・談春そのものに、八五郎の母と談春の母親が重なるように見えてくる。それは、冒頭の工夫から始まる談春の演出によるもので、「自分にできる八五郎はこれだ」と示しているようだ。
八五郎を気に入った赤井御門守は、彼を士分に取り立てる。三遊亭圓生始め、この場面で切る落語家がほとんど。後半は侍となった八五郎が描かれるがカットされる。談春はそのことに触れ、「この八五郎、侍となって地武太治部右衛門(じぶたじぶえもん)となる」と、前半の「粗忽の使者」の前日談として、高座を終える。これも、談春のオリジナルである。
談春は、これまでも「粗忽の使者」と「妾馬」をカップリングした独演会を開いている。ナンセンスと人情、一昨日触れた「志村魂」ではないが、落語をそして笑芸の深みをを体験する、最強の二演目ではないだろうか。
一旦幕が閉じた後に、再度登場した談春。「妾馬」というネタは、八代目桂文楽・古今亭志ん生・六代目春風亭柳橋の後塵を拝していた三遊亭圓生に、光明をもたらした話だと紹介した。師匠談志は、前半で演じた「おしくら」、圓朝作「札所の霊験」、「包丁」といった圓生の得意とする話を談春に演じるように促した。昨年の「牡丹灯籠」も含め、圓生的なものも談春が継承しているのだろう。
立川談春芸歴四十周年記念興行〜これから〜はまだ続く
蛇足だが、「圓生百席」の「妾馬」に収録された“芸談“で、圓生は次のように語っている。「妾馬」は、二つ目時代に覚えたが、師匠である父は“井戸替え“と呼ぶ、お鶴が赤井御門守に見染められ、女中奉公に出る場面(志ん朝・談春らはカットしている)から演じるのだが、八五郎が屋敷に呼ばれ御門に着くところで切った。
圓生は、若いうちは演る噺ではないと温めて、戦後に取り組むことにする。その際に、八五郎が屋敷内で繰り広げるドタバタまで演ろうと、三代目三遊亭圓右や、小圓朝を参考にし、ネタを作り上げたという。
圓朝はこの演目を通じ、“人物を表した人情“を表現することが自分に合っていることを見出し、これを転機としてそうした工夫を他の演目においても展開していった。
談春が継承した圓生落語、“これから“どうなっていくだろう
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