エジンバラからロンドンの旅(その6)〜ウェストミンスター寺院で戴冠式を体感する
(承前)
今回の旅で、訪れようと思った場所の一つが、ロンドンのウエストミンスター寺院(Westminster Abbey)でした。
昨年、イギリスではチャールズ国王の戴冠式が執り行われました。その会場となったのが、このウエストミンスター寺院。1066年から君主はここで戴冠し、多くのイギリス国王・女王や著名人が埋葬されています。
チャールズ国王の戴冠式では、今般結婚した次女がオーケストラの一員としてバイオリンを演奏、そのことは昨年記事にもしました。ウエストミンスター寺院を見学したのは随分前のこと、次女が演奏したといっても、寺院の中の様子、演奏した場所などを思い浮かべることができないので、今回再訪しようと考えました。
寺院に入場し、あそこじゃないか、いや違う向こうじゃないかと、オーケストラが位置した場所を、次女からの写真などを参考にしながら探しましたが、はっきりしません。たまらず案内の方に尋ねたところ、ようやく判明しました。
寺院の西門、戴冠式の際、参列者が入場した入口ですが、ここを入ると身廊(Nave)があります。参列者が座る場所です。その奥に聖歌隊席があり、さらに進むと寺院内で特に神聖な場所、内陣(Sanctuary)が位置します。戴冠式の際、玉座はこの内陣に置かれ、戴冠の儀式が行われました。
身廊と聖歌隊席の間に、二層構造になっている場所があります。見学者は下層のトンネルのようになっている場所を抜けて聖歌隊席を見学するのですが、上層部にはオルガン奏者の席があり、戴冠式の際にオーケストラが配置されたのもこの上層部のスペースでした。
次女はかなり狭かったけれど、戴冠の儀式はよく見えたと言っていました。実際、天皇皇后両陛下が座った身廊から、戴冠の場所はほとんど見ることはできませんが、オケが位置したのは一段高い位置であり、見学するには特等席であったことが分かりました。
さて、ウエストミンスター寺院の見学は、やはりオーディオ・ガイドが助けてくれます。様々なエピソードを聞きながら、王族のお墓と共に、アイザック・ニュートンやチャールズ・ダーウィンといった英連邦への貢献者の墓碑を見学します。多くの墓碑はその上を歩くことができるのですが、周りをケシの花で囲われ、見学者が歩行することができないのが、無名戦士の墓です。第一次世界大戦後の1920年に、フランスから持ち替えられた無名イギリス兵士たちの戦功を讃え、その霊が祀られています。
寺院の奥には、王室関係者の墓が並んでいますが、前回お話ししたスコットランド女王メアリーの墓もここにあります。メアリーはエリザベス1世により亡きものにされたわけですが、エリザベスが崩御した後、メアリーの一人息子がジェームズ1世として即位、メアリーの悲願だったスコットランド君主としてイングランド王となる野望が、息子の代で実現、1603年ジェームズ1世は両国王を初めて兼ねることになりました。
ジェームズ1世は母の名誉を回復すべく、メアリーの墓をウエストミンスターに移し、エリザベス1世の眠る聖母礼拝堂(Lady Chapel)に立派なお墓を造り安置します。自身も同じLady Chapelに入っているのですが、息子であるチャールズ1世は清教徒革命で処刑され、寺院には祀られていません。
こうして考えると、このウエストミンスター寺院こそ、さまざまな怨念・幽霊が漂っている場所のようにも思えます。
なお、オーディオ・ガイドには入っていませんが、是非観て欲しいのはデビッド・ホックニーのステンドグラス。“女王の窓“(The Queen Elizabeth II window)を飾っていますが、エリザベス2世の治世を祝すために、英国人の現代美術家であるホックニー氏に委嘱されて作成されました。場所がよく分からなかったので、係の人に尋ねるとすぐ教えてくれました。長い歴史に彩られた寺院の中で輝く現代美術、寺院が過去だけではなく未来に向かっていることを感じさせてくれます。
それでは、明日はオランダ出身でイギリスの宮廷画家としても活躍したアンソニー・ヴァン・ダイクが描く「チャールズ1世騎馬像」を所蔵され、これまた過去と現代をつなぐ、ナショナル・ギャラリーに行ってみましょう。
続く
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