手術⑦|極限状態
院内のコンビニというだけあって、規模は大きくない。
そして、この時間帯。
弁当なども種類は残っておらず、お湯もレジで依頼してから沸かすという状態だった。
ある意味選択肢が少ない分、すぐに決められても良さそうなものだが、なかなか決められない。
まさに、「心ここに在らず」とはこのことだった。
先ほどの “説明室での報告” が頭から離れない。
(とりあえず何か腹に入れなきゃ...)
とわかっているものの、思考途中にまた新たな思考が始まったり、あらゆる感情が入り込み、「決める」という行為に辿り着かない。
本当に「極限状態」だったんだと思う。
そんな中、最終的に選んだのが「こってりラーメン」。
しかしながら、私は家系ラーメンが得意でなく、今振り返ってもこの選択が信じられず、どういう思考経路でそうなったのかわからない。
それくらい、冷静さを失っていたんだと改めて思う。
そして、車に戻り、みんなで軽食をとる。
なんとか無理やり口に運ぶものの、全然喉を通らない。
(なんで俺、こんな重いラーメン選んだんだろう...)
と当たり前のように後悔する。
妻も妻で、同じような状況であり、「 “砂の味” しかしない...」と思いながら食べていたようだった。
ただ、やはりお腹に入れることで、エネルギーが補給された実感はあった。
“腹が減っては戦はできぬ” というのを身をもって知った。
そして、車の後部座席を倒し、夫婦で横にならせてもらった。
そんな中、このタイミングで仕事を終えた弟(3兄弟の真ん中)が「何かできることがあれば」ということで、再度病院に駆けつけてくれた。
本当に良き弟であり、こういう “想い” というのが必ず息子にも届くと思い、ありがたかった。
お腹に入れてエネルギー補給され、さらに横になったことで、間違いなく回復した。
それに伴い、私たち夫婦も少しずつ会話が戻り始め、ポジティブな思考も再び巡り始める。
「俺たち(私たち)の息子なら大丈夫!」
と互いに、そして家族とも話をし、医療チームからの連絡を待った。
そして、19時50分、ついに私の携帯が鳴った。
軽食をとり始めて1時間が経とうかという頃だった。
「処置が終わりまして、医師より説明がございますので、先ほどの説明室までお越し下さい」
看護師からで、割と落ち着いたトーンであった。
即座に気持ちを切り替えて立ち上がり、夫婦で説明室へ向かう。
家族には待機してもらい、後ほど連絡することにした。
そして、先ほどの「説明室」へ入る。
やはりここの “独特な空気感” は変わらない。
(さっきよりは待たないだろう...)と思っていても、ただいるだけで、心がざわつく。
(無事成功であってくれ...!)
(この気持ちから解放してくれ...!)
と心から、魂から、そう叫びながら待っていた。
そして、そこから3分ほどで、ついに医師(外科医)が入ってきた。
その表情は明らかに暗く、疲労困憊という感じで、 “覇気” がない。
(まさか...)
と、“最悪の事態” が脳裏をよぎる。
そして、静かに口を開き、気持ちを押し殺すように医師は話し始めた...