誕生⑩|手術からの帰還
手術開始より二時間以上が経過し、時刻は20時30分を過ぎていた。
この時間になると、各病棟の面会時間も終わり、異様な静けさとなるが、待合室周辺の新生児たちは時刻に関係なく大合唱をしており、相変わらず微笑ましい。
そんな中、21時近くまで私の元に連絡は来なかった。
(二時間半…何かイレギュラーか、難航しているのか…)
息子を信じ、どっしり構えていたつもりでも、時間が経つにつれて “不安” が徐々に湧いてくるのが分かった。
しかし、まもなく21時になろうかというタイミングで、ようやく看護師より声を掛けられる。
「手術が終わったようですので、迎えに行きましょう!」
と、夜勤で新たに出勤してきた若い看護師に案内され、手術室へ向かった。
手術室に到着するや否や、医療チームの一人に、
「あ、お父さんはまだ呼ばなくてよかったんだけどね~(笑)」
と言われ、私も苦笑いを浮かべる...
ただ、もう来ているのであればということで、状況を説明してくれた。
とのことだった。
スタートの遅れと、一部確認で時間を要したとのことだったが、結果的に手術は無事成功したということで、ひとまずホッとした。
そして、止血と諸々処置が終わり次第移動するとのことで、手術室近くのベンチで待機することとなった。
この時すでに21時を過ぎていたため、病院は消灯しており、ベンチは真っ暗で自動販売機の明かりと廊下の豆電球しかないという状況。
ドラマに出てくるような “夜間病棟” そのものだった。
その異様な静けさの中、息子はすぐに出てくると思っていたが、なかなか出てこない。
それから15分ほど経った頃に、先ほどの若い看護師だけ出てきた。
気を遣ってくれたのか、医師に指示されたのか定かではないが「待機中、お供します」とのことだった(笑)
「初めての子どもはどうか」
「父親としての実感はいつ芽生えたか」
「名前は決めてるのか」…
などと沢山質問してくれた。
この日は朝の6時からほぼノンストップであり、合間合間で話したりはしているものの、「ひとりで待機」という時間が大半。
そして、直前に我が子の手術の成功という報告で安堵したせいもあってか、徐々に「疲労感」を認識し始めていた。
そんな中で、相手をしてくれるのは本当に助かった。
そして、10分ほどで看護師は手術室に戻ったが、その後割とすぐに息子と医療チームが出てきた。
出てきてすぐに、医師の一人から、
「息子さん本当によく頑張りました! 是非褒めてあげて下さい^^」
と移動前に、私の声掛けをする時間を作ってくれた。
いざ手術後の息子姿を見ると、顔色は良くなったが、浮腫みは続いており、管の数も増えていたため、もう本当に一言しか出なかった。
「よく頑張ったな…」
生まれてまだ数時間しか経ってない中での「手術」。
新生児、さらに言えば「早産」であり、身体の負担は想像を絶する。
考えれば考えるだけ、乗り越えた息子を前に涙が出そうになり、抱きしめたくても抱きしめられないことにもどかしさを感じる。
しかしながら、父親として息子を称え、そして笑顔で迎え入れるべく、微笑みながら頭を撫でた。
本当に「強い生命力」で乗り越えた息子を、誇らしく思った。
そして、NICUへと戻る息子を見送り、早朝6時から始まった「運命の一日」も終わりを迎えた。