芝山努監督『映画ドラえもん のび太と夢幻三剣士』
あなたは「現実から逃げたい」と思ったこと、ありますか?
わたしは何度もあります。
あなたもそうかもしれませんね。
そういう方にとって、非常に共感出来る映画だと思います。
この、『映画ドラえもん のび太と夢幻三剣士』は…。
※注意
以下の文は、結末まで明かすネタバレを含みます。
未鑑賞の方はご注意ください。
わたしはこの映画を、薬物乱用の恐怖についての教材の一つだと思っています。
知恵の木の実=違法薬物
トリホー=違法薬物の売人
のび太=違法薬物中毒になる少年
…だと勝手に解釈しているのです。
※備考
老人、鳥、回収業者については諸説ありますが、わたしは全てトリホー自身だと考えています。
たぶん本体は鳥で、老人、回収業者に化けている。
「どこの世界にも怪しい人物はいるから気をつけないといけない」というメタファーなのかもしれません。
売人は、最初は優しい顔をして近づいてくるもの。
トリホーもそうでした。
親切な老人のフリをしてのび太に近づき、「知恵の木の実」を無料で与えます。
「知恵の木の実」と言えば、人間にとっては禁断の果実。
それに、知らない人から貰った食べ物を口にするだなんて、とんでもないこと。
しかし、あろうことか、のび太は初対面の老人から突然貰った「知恵の木の実」をあっさりと口にしてしまいました。
その途端、のび太の頭はスーッとした気分に!
それまでちっとも解けなかった宿題が、スラスラ解けるようになりました。
しかし、その効力が無くなると、のび太の頭は元通り…。
自信を失い、冴えない現実に打ちひしがれるのび太に、トリホーが近づきます。
のび太が「お願い! あの知恵の木の実をもっとください」と頼むと、トリホーはこう囁きます。
「何であんなもの? 君はもっとすばらしい力を授かるのです。ただし『夢幻三剣士』の世界でのことだが」
「夢幻三剣士」という名前を聞いたことがなく、戸惑うのび太。
それは、未来の道具『気ままに夢見る機』のカセット『夢幻三剣士』のことでした。
まんまとトリホーの罠にかかったのび太は、ドラえもんに『夢幻三剣士』の購入をおねだり。
ドラえもんはその高価さに戸惑いました。
しかし、結局はローンまでのび太に組んで買い与えてしまいました。
楽しい夢を見たくてワクワクする二人の様子を、トリホーは嗤います。
「何もかも忘れ、夢の世界を楽しみなされ。オーホホホホホ…」
違法薬物の場合、その種類にもよりますが、使用すればするほど依存度が高くなります。
のび太も、『夢幻三剣士』の世界に長くいるうちに、何が幻で何が現実なのかわからなくなってしまいました…。
それは、ドラえもんとのび太が、あるボタンを押してしまったことが大きく影響しています。
それは、夢の世界と現実をひっくり返す「隠しボタン」。
夢の世界にいるのび太は、ある時ママに起こされるのですが、その時、のび太が見る現実世界は、やけにぐんにゃりと歪んでいます…。
そしてのび太は、うつろな目をして、
「ここはどこ? 何だか見たようなとこ…。あ、そうか、いつも見てる夢だ」
と呟いて、また夢の世界に戻ってしまいます。
ママがいる世界の方が現実なのに。
現実世界から逃避しているうちに、ついにのび太は元の世界に戻れなくなっていくのです…。
(※これについては諸説あります)
…だって、まだ作動中の『気ままに夢見る機』が持ち去られてしまうのですから…。
トリホーそっくりの、不気味な回収業者によって…。
「毎度あり〜。おやおや、おやすみですか。またどうぞお引き立てを。オーホホホホ…」
一見、ラストで、のび太は夢から覚めて無事に現実世界に戻って来たように見えます。
けれど、エンディングの異様な光景が、その可能性を否定します。
果たしてあんなところに学校があったでしょうか?
けれど、のび太としずかちゃんは笑顔で登校しています。
まるで、いつもの登校風景のように。
…もしかしたら、みんなまだ夢の世界から目覚めていないのかもしれません…。
…というように、この映画は『ドラえもん』映画シリーズの中でも特にブラック要素を感じさせる作品です。
実際に藤子・F・不二雄先生が「ダメ。絶対。」のようなメッセージをこの映画に込めたかどうかは分かりませんし、原作漫画の方はこんなに不気味ではないので、あくまでもわたしの勝手な解釈ではあるのですが。
もしかしたら、『夢幻三剣士』という冒険活劇の中に、違法薬物の恐ろしさを知らせるメッセージが封じ込められているのかも…?
わたしはそんな気がしてなりません。
冒頭でドラえもんがのび太に言う、
「夢の世界に逃げたって、覚めたら惨めになるだけだよ!!」
という台詞が、実に教育的ですから。
現実はたいていみじめで、悲しく、辛いもの。
誰だって、何度も逃げたい気持ちでいっぱいになりますよね。
逃げても良いのです。
けれど、怪しいクスリに逃げてはいけません。
怪しい人物の甘い誘惑に乗ってもいけません。
取り返しがつかなくなるから。
…この映画から、そんなメッセージを感じます。