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ヘンリー・セリック監督『コララインとボタンの魔女』

 はじめから、「あれ? この世界…何かがおかしいぞ…」と不気味でゾワゾワくる映画。

 仄暗く湿ったような感じ。

 ゾクッとするこの雰囲気は、きっとストップモーションアニメならでは。



 ※注意
 以下の文には、この映画の結末まで明かすネタバレを含みます。
 また、あくまでもわたしなりの解釈です。


 ⭐️ストーリー


 主人公はコララインという名前の女の子。

 コララインは両親と共に、築150年の家に引っ越してきました。

 両親はライター業で、執筆の真っ最中。

 コララインにちっとも構ってくれません。

 もしこれが『となりのトトロ』だったら、こういう時、サツキはメイと一緒に家の中を探検出来るのですが…。

 あいにく、コララインは一人っ子。

 また、近所の男の子・ワイビーは、まるでカンタがサツキを気にするみたいに、コララインの周りをうろちょろします。

 カンタが「お前んち、おっばけやーしきー!」と言うかのように、ワイビーはコララインをからかってきます。

 また、「俺のばあちゃんがお前んちの大家。だけど、いつも子持ちには貸さないのに変だなあ…」と意味不明なことを言い続けて鬱陶しい。

 だから、コララインはワイビーのことをあんまり気に入らない様子です。

 ワイビーは「これ、ばあちゃんのトランクに入ってた。誰かに似てね?」と、コララインにそっくりな人形をくれます。

 なんだか不気味なのですが、コララインはアパートの中を一人であちこち見て回る時、その人形も持ち歩きました。

 そしてコララインは見つけてしまいます。

 子どもにしか通れない、小さな小さなドアを…。

 この奇妙なドアの向こうは細長いトンネルのようになっていて、コララインは好奇心からそこを通っていってしまいます。

 トンネルの向こうには、コララインのパパとママに見た目がそっくりなのに、まるでお姫様みたいにたっぷり甘やかしてくれる、別のパパとママが居ました!

 異様なのは、別のパパとママの両目がボタンであること…。

 明らかに生きた人間ではありません!

 ボタンの目を見てコララインは怯えます…が、もともと「両親に構って欲しい」という寂しさを抱えていてどうしようも無かったので、つい、別のパパとママのことを好きになってしまいます。

 近所の変わった人たちから「あなたの身に危険が迫ってる」と警告されたり、ワイビーから「お前んちは子どもが入ったら危ないんだ。ばあちゃんは昔このアパートに住んでたんだけど、ばあちゃんの双子の妹が消えたんだ。ばあちゃんはさらわれたって言ってる」と意味深なことを言われても、コララインはトンネルの向こうの世界へ行くのをやめられません。

 やがて、ボタンの目をした別のワイビーとも友達になりました。

 別のワイビーは本物のワイビーと違って、無口で、とても穏やか。

 コララインがすっかり気を許した頃…。

 別のパパとママは、「わたしたちとずっと一緒に居るためにあなたも目をボタンにしましょう」と言い出しました!

 本物のワイビーが普段餌をあげている黒猫が(この黒猫だけは「別の」存在はありません。理由については後述します)、別のママがいかに危険か教えてくれます。

 この世界は、黒猫によると「あいつがお前の気を引くために作った世界だ」。

 コララインが黒猫に「あいつはどうしてわたしが欲しいの?」と尋ねると、黒猫は「あいつも誰かを愛してみたいのかもな…。それかお前を食べたいだけかも」と答えます。

 別のママはコララインに愛情と執着を示しますが、コララインは拒絶。

 すると、怒った別のママはみるみるうちに恐ろしい魔女の姿に変身しました!

 異常に細長い手足。

 ドクロのような顔。

 それはまるで蜘蛛のような姿…。

 魔女は「可愛い娘になったら出してあげる!」と叫び、なんとコララインを鏡の中に閉じ込めてしまいました。

 そこには、3人の子どもの幽霊たちがいました。

 幽霊たちはコララインに教えてくれました。

 あれは別のママなんかじゃない、「ボタンの魔女」だよ、と。

 子どもたちは生前、かつてコララインと同じような目に遭ったそうです。

 まず、魔女は狙った子どもそっくりの人形を作ります。

 その人形のボタンの目を通して、魔女は子どもが何をして欲しがっているかを探ります。

 魔女に「愛してる」と言われ、願いを叶えてもらった子どもは、もっと願いを叶えて欲しいと欲張って…、魔女の言う通りに目をボタンに変えさせてしまい、命を食べられてしまったのです…。

 幽霊たちはコララインにこう頼みます、

 「もしもあなたが魔女から逃げ出せたら、わたしたちの目を見つけて。どこかに隠されているのよ」

 「目を取り戻さないと、僕らの魂は天国に行けないんだ」

 …と。

 子どもたちと話していた時、別のワイビーがコララインを助けにやって来ました。

 別のワイビーは魔女に隠れてコララインを鏡の中から逃がしてくれましたが、すぐに魔女はそのことに気づいてしまいます。

 コララインは別のワイビーに「一緒に逃げよう!」と言いました。

 けれど、魔女を裏切ったせいで別のワイビーの体は崩れていき…、それでも別のワイビーは命がけでトンネルの向こうにコララインの体を押し出してくれました。

 別のワイビーを失うという悲しい別れを経験しましたが、コララインは無事に元の世界へ帰ります。

 ところが。

 元の世界では、コララインのパパとママが行方不明になっていました。

 魔女にさらわれてしまったのです!

 コララインは本物のワイビーに事情を説明しましたが、全く信じてもらえず、「君はいかれてる!」とまで言われてしまいました。

 他の隣人に相談すると、占い好きの隣人が、探し物を見つけてくれるという不思議な石(輪っかみたいになっています)をコララインにくれました。

 コララインはその石を持って魔女の所へ戻ります。

 両親を取り戻し、そして、子どもたちの目を見つけるために…。

 魔女はコララインが元の世界に戻れないように、トンネルのドアの鍵を飲み込んでしまいました!

 けれど、コララインはひるんだりしません。

 事前に黒猫から「魔女はゲームが好きだ。ルールを守りはしないが…」という情報を貰っていたからです。

 コララインは魔女にゲームを持ちかけます。

 ゲームの内容はこう。

 コララインが両親だけでなく子どもたちの目も見つけられたら、コララインの勝ちなので、魔女は全員を解放すること。

 もしコララインが全てを見つけられなかったら、コララインの負けなので、目をボタンにして、ずっと魔女と一緒にいる。

 魔女はあっさりとゲームに乗りました。

 幸い、不思議な石のおかげで、コララインはすんなり最初の目を見つけました。

 が、別のパパが大きなカマキリのロボットに操られて、コララインに襲いかかってきました!

 黒猫の「魔女はルールを守らない」という情報の通りです。

 別のパパは「ごめんよ〜!操られてるんだ…。君にこんなことしたくないのに…」と苦しそうな声をあげ、「受け取って!」と最初の目をコララインに手渡してくれ、そのまま地面に飲み込まれていってしまいました…。

 魔女を裏切ることは、すなわち死を意味するのでしょうね。

 別のワイビーといい、別のパパといい、もしも別の形で出会えたらきっと良い友達になれたでしょうに…。

 次の目については、コララインの機転によって無事にゲット。

 最後の目を探す途中、コララインが目にしたのは、見せしめとして吊るされた別のワイビーの残骸…。

 ひどい!!

 コララインは黒猫の力を借りて最後の目を手に入れました。

 が、両親だけがどうしても見つかりません。

 コララインがほぼゲームに勝ちそうなので、魔女の力のバランスがおかしくなっているのか、この奇妙な世界は壊れかけて、魔女の姿もボロボロになっています。

 魔女の顔はひび割れて、手はまるで針を何本も繋ぎ合わせているかのよう。

 その姿で、「わたしはあなたを愛しているのよ」と魔女はにじり寄ってきます。

 が、てっきりその鋭く尖った指先でコララインに何らかの危害を加えるのかと思いきや、魔女はコララインに直接怪我を負わせるようなことはしません。

 しかし、このまま両親が見つからなければ、コララインはゲームに負けてしまいます。

 不思議な石は魔女に処分されてしまい、危機的状況になってしまいましたが、コララインはスノードームの中に両親が閉じ込められていることに気づき、とっさに黒猫を魔女に向かって投げつけて、スノードームを手に入れました。

 その拍子に猫が魔女の顔を引っ掻いたので、魔女の目からボタンが外れました。

 怒り狂う魔女は蜘蛛そのものへと変貌。

 コララインは蜘蛛の巣にかかってしまいましたが、トンネルのドアの鍵を手に入れ、更に幽霊たちの協力もあってどうにかトンネルをくぐり抜けます。

 が、逃げる際に、魔女の手首から先を切り落としてしまいます。

 自分から逃げていくコララインを、魔女の「待って! 置いて行かないで! あなたが居ないと死んでしまう!」という狂った悲鳴が追いかけてきます!




 ※結末は実際に観てお確かめください。




 ⭐️考察①
 「別のパパ」や「別のワイビー」などが居たのに、黒猫に「別の黒猫」が居なかった理由は?


 別のパパも、別のワイビーも、魔女が作ったものです。
 魔女はもともと、呼んでもいないのに無断で自分の世界へ出入りする黒猫のことが目障りでしたし、コララインも黒猫に当初良い印象を持っておらず、別の黒猫をわざわざ作ってもコララインの気を引けないので、最初から作らなかったのでしょう。


 ⭐️考察②
 なぜ別のパパと別のワイビーはコララインを助けてくれたの?


 皮肉なことではありますが、別のパパと別のワイビーは、コララインに気に入られるよう、「理想のパパ」「理想の友達」として魔女に作られた存在です。
 だから命がけでコララインを守ったのでしょう。
 切ない…。


 ⭐️考察③
 なぜ本物のワイビーのおばあちゃんは子持ちの家族にアパートを貸したの?



 この映画のオープニングには、魔女がワイビーのおばあちゃんの双子の妹にそっくりな人形の糸を解いて、コララインそっくりな人形に作り変えるところが映っています。

 おばあちゃんは双子の妹の失踪について、妹が家出したのではなくさらわれたこと、そして、妹に不気味なほどそっくりな人形に何か関係があると気付いていたのかもしれません。

 だから、ある日その人形が別の女の子そっくりに変わったことに気づいて、「次はこの子がターゲットかもしれない」と思って、トランクに隠しておいたのではないでしょうか。

 人形が子どもの手に渡りさえしなければ、子どもに危険は及ばない…と思ったのかもしれません。

 アパートを空室のままにしておくよりは、どこかの家族を入居させた方が家賃収入を得られますし。

 だから子持ちの家族に貸したのかもしれません。

 …結局、せっかくおばあちゃんがトランクに隠しておいた人形をワイビーが勝手に持ち出して、よりにもよってコラライン本人に渡してしまうのですが…。


 ⭐️ 考察④
 ボタンの魔女の正体は?

 幽霊のうちの一人が開拓時代の少女だったことから察するに、少なくとも150年以上前から魔女は存在していたと考えられます。

 その姿や、行動からすると、恐らく魔女は蜘蛛が変化したもの。

 ドアの鍵を魔女自身が持っているにもかかわらず、自ら子どもをさらいに出かけるのではなく、あくまで子どもが罠にかかるのを待つのも、蜘蛛ならではでしょう。

 魔女の手下たちのほとんどが虫。

 ですから、その虫たちも実はかつて蜘蛛の糸に絡めとられた被害者だった可能性があります。

 黒猫が「あいつも誰かを愛してみたいのかもな」と意味深なことを言っていた通り、もしかしたら魔女は人間の家族の幸せそうな姿を見ているうちに羨ましくなり、自分も人間の子どものママになってみたくて子どもたちをさらっていたのかもしれません。

 けれど、捕まえた生き物を食べる蜘蛛としての習性には勝てず、さらった子どもを食べ、その栄養によって異常に生き長らえ、150年を経てついにコララインと出会うことになったのかもしれません。

 魔女は本当に「自分がママになれる」と思い込んでいるのかも。

 けれど、子どもは他人が産んだ子であって、自分が産んだ子ではありません。

 だから…、もしかしたら。

 産もうとしたのではないでしょうか?

 一連の惨劇は、「子どもを食べる=お腹が膨れる=妊娠している!」という狂った思考回路からきたものかもしれません。

 けれど、たとえ子どもを食べたところで、子どもを出産出来るわけではありません。

 当たり前ですが、魔女に食べられた子どもは死んでしまいます。

 だからまた、お腹を膨らませてくれる新たな子どもが必要だった…。

 …そう想像すると、魔女もまた哀れですね…。

 せっかくお腹が膨らんでも、そのうち消化・吸収してお腹はへこみ、決して出産できることはありません。

 その時、もしかしたら魔女は泣いたかもしれません。

 愛する我が子を失った、と泣いたかもしれません。

 魔女が食べた子どもは分かっているだけでも3人なので、魔女は少なくとも3回以上、流産や死産のような苦しみを味わったのかもしれません。

 我が子を失って、狂って、必死に我が子を探す鬼子母神のようになってしまったのかも…?

 …けれど、子どもは勿論、子どもをさらわれた本物の親たちは、それ以上に酷い苦しみを味わったはず。

 魔女の所業は決して許されるものではありませんね。





 以上の通り、恐ろしいけれどどこか悲しい映画なので、わたしは定期的にこの作品を観返しています。

 観る度にゾッとするけれど…。

 この記事をここまで読んでくださった方も、どうか怪しい鍵とドアにご注意を!

 そして、不気味なくらい自分にそっくりな人形にも気をつけて…。

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