ティム・バートン監督『スリーピー・ホロウ』
世にも珍しい、首なし騎士の恋愛映画…だとわたしはこの映画のことを解釈しています。
ジョニー・デップもクリスティーナ・リッチも脇役にして、わたしにとってこの映画の主役は首なし騎士。
傭兵としてドイツからアメリカへと渡ってきた騎士は、戦いに勝つことや報酬を得ることよりも、ただひたすらに殺戮を楽しみました。
歯を鋭くとがらせ、目を爛々と輝かせ、一人で敵陣深く斬り込んでいくこともしばしば。
だから彼を襲ったのが敵の軍だったのか、彼の狂気を恐れた味方の軍だったのかはわかりません。
いずれにせよ、彼は追われ…、森の中で薪を集めている金髪の少女2人と出逢いました。
その時、彼がハッと目を見開いたのは、少女たちとの遭遇に驚いたからでしょうか?
それとも少女たちの美しさに一瞬見惚れたからでしょうか?
彼は唇に指を当て「シー…」と言います。
しかし少女のうちの1人が薪を折り、その音で彼は追手に発見され、斬首されました。
わたしはこの時騎士が少女たち(のうちの一人?)に恋をしたと解釈しています。
生前に人殺しを繰り返した騎士は当然地獄行き。
騎士は死してなお彼女に恋心を募らせ、20年の時を経て、大人になった彼女の手で地上に復活。
彼女に利用されていると知りながら、彼女に命じられるままバッサバッサと人間たちの首を狩り、地獄へ戻る時は彼女も連れて逝くのです。
きっと彼女の方は騎士のことなんてちっとも愛してはいなかったでしょう。
しかし、自分が敵と見なす人間全てを騎士に殺させ、自分でも実の妹の首を切ってしまう彼女の冷酷さは、かえって彼を惚れさせてしまったのでしょう。
「同類」であると確信させてしまった。
地獄へ連れて行かれると悟り恐怖に凍りついた彼女に騎士は口づけ。
いや、口づけなんて生優しいものじゃない、彼女の口から血が噴き出すほどのディープキスをしてしまいました。
この流血は騎士の歯が鋭く尖っていたために彼女の舌を傷つけるか噛み切るかしてしまったのが原因だと推察できます。
彼がただ単にディープキスをしたかったのか、それとも地獄に連れて行きやすくするために彼女の舌を噛み切って殺しておこうと思ったのかは…映画の中では描かれていません。
騎士がこのキスをした理由は非常に謎です。
可能性の一つとして、復讐のため、という理由も考えられます。
そもそも自分が殺されるきっかけを作り、死後は頭蓋骨を奪って、次々と人の首を狩らせるという汚れ仕事を強いた悪女への復讐。
舌を噛み切るという激痛を与え、地獄へ道連れにする…のであればわざわざキスなんてしなくても自分の持っている剣で細切れにするなり何なり方法はあるはずなのに、それでもキスを選んだのは、やっぱり、恋しちゃったからではないでしょうか?
きっと20年越しの想いが口づけの程度に影響してしまったのです。
良い子は歯を尖らせてはいけません。
危ないから。
或いは、騎士は普通の口づけの仕方を知らなかったのかもしれない。
とことんアブノーマルな人なのかも?
さて、彼女の悲鳴は騎士の門出へのファンファーレ!
彼女を愛馬に乗せ、騎士は地獄へと帰ってゆきます…。
呆然としているジョニー・デップとクリスティーナ・リッチを残して。