『百鬼園日記帖』 – 日めくり文庫本【1月】
【1月11日】
十一日
朝、士官学校は七時四十分から一時間ですんだけれども此間内ためていた用事を片附けて昼食をして帰る。午後ゼロニモの続稿、夜十時前に連続で出させにやったら郵便局でもう扱わないと云うから明日の朝車やの子に郁文堂にもたしてやる事にした。十日迄の約束。晩鈴木さんが来て祖母はいよいよいいと云った実にうれしい。曾根からはがきが来てお近さんが九度以上の熱で医者にみせたら流行感冒の由、曾根や赤ん坊にもうつる怖れがある。大いに心配する。今夜は早くねようと思っていたのに又十二時を少し過ぎた。くもり、雨。
百鬼園日記帖〔自大正七年六月 至大正八年九月〕
——内田百閒『百鬼園日記帖 内田百閒集成20』(ちくま文庫,2004年)146ページ
今から約100年前の大正八年(1919年)の一月、のちに「俸給」(『大貧帳 内田百閒集成5』)でも書いているように内田百閒一家は「西班牙風(スペインかぜ)」に見舞われています。元旦から連日、祖母の容態を危ぶみながら、海軍機関学校勤めと翻訳作業をこなし、看護婦の日当を支払うための借金の工面など、慌ただしい日が続いているのが綴られています。
/三郎左
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