鈴木涼美『グレイスレス』の読書感想文
鈴木涼美の芥川賞候補となった第二作目。Elleのポッドキャストから鈴木涼美の思想や価値観に触れ、彼女の選ぶ言葉の魅力に気づき、気付けば小説を書く作家にもなり...。
過去にもいくつかの本を出していた彼女だけど、普段の語り口調とは違う独特の表現に慣れるのには時間がかかったため、今回もそんな感じかと思っていたが、グレイスレスでは至ってシンプル。淡々と俯瞰して語る主人公は鈴木涼美そのものではないかとさえ感じた。
もしかしたら既にネットで調べたら出てくる情報かもしれないが、前情報なしで読んで感想を書いているので……。グレイスレスには、鈴木涼美を連想させる要素が個人的に3つあると思っている。1つ目が主人公の住む実家、2つ目がポルノ業界、3つ目が祖母と子の関係。母親をあえて英国という遠い距離に置いたのは、鈴木涼美の実母の死が関係しているのだろうか。過去に幾度も母親の存在について言及していて、その特別なる存在は天国という届かない存在とも掛かっている気がした(私の安直な分析以上の意味を持つことは前提として)。
と同時に、祖母との会話は鈴木涼美と実母との会話のシーンが印象的な鈴木涼美の実体験が元となる『身体を売ったらサヨウナラ』も思い出させる。例えば、人は死を悪く見過ぎで、死体の写真が新聞に載ることもない。死が悪いものだとしたら、生き物全てが寂しいものとなってしまう。というような会話など。
グレイスレスは、読みながらも鈴木涼美の人生を垣間見ているような、フィクションでありノンフィクションであるような、不思議な感覚を与えてくれる。本を閉じた後には『娼婦の本棚』を手に取り、つい赤絨毯を見てしまった。