マーケターではなくLoverを雇え|後編(結論編)
独自の世界観を持っている企業。伝えたい価値やコンセプトがはっきりしていて、ブランディングが確立されているような企業。私は、今後このような企業こそが人の心を動かし、自然発生的なマーケティングも叶えてゆくのだと思います。
さて、そんな企業が、いわゆる「バズ」に代表されるような"ウケる発信"ではなく、自社のブランドに合うマーケティングをするためにはどうしたらいいのか?そんな悩みを持つ方も多いと思います。まさに、私もその一人でした。
この記事では、本業 戦略コンサルタントをしている私が、中小企業のマーケティング部門で、1年間、手を動かし・分析し・挫折に発見を繰りかしながら見つけた糸口をご紹介します。
【マーケターではなくLoverを雇え|前編】では、私が1年間のマーケティングを担当するにあたり、どんな準備をしたのか、また、推進する上で、遭遇した障壁についてまとめています。実際のスクリーンショットも載せた充実した内容になっているので、ぜひご覧ください。
さて、本文に入るまえに、先に結論を書きたいと思います。
1年間のマーケティング活動で見えてきた暫定解、それは自社のLover(つまり、自社ブランドをこよなく愛し、積極的に知ろうとする存在)に惜しみなく企業を知ってもらう。そして、自分の目で見て・感じたことを発信してもらう。それこそが、マーケティングにおいてもっとも重要な観点だった、ということです。うわべだけの言葉ではなく、本当に心が動いた人の言葉は、きっとどんなマーケティングスキルにも優る。これが私が提唱したいLover理論の全てです。
とはいえ、歴史あるマーケティング研究に沿って考えるべき技術もあるので、今回はLover理論としてマーケティングを推進するための3つの重要項目について共有したいと思います。
■マーケティングを推進する上で大事なこと3つ
【1】 まず、マイナスはゼロに戻そう
まず、ユーザーにとって障壁となる要素は早々に排除することを強くオススメしたい。
ここでは、マイナスをゼロに戻すための方法について少しだけ触れておく。
まずマイナスを理解する必要がある。そのために、インタビューをしてみると良いだろう。何人かの人(なるべくペルソナに近い人が理想)に、自社ブランドのHPや商品を使ってもらい、どのような順で何を考えるのかを観察してみる。この時、ユーザーの使い方を「見て」観察し、「ヒヤリング」するのが大事!
先ほどのステップで、マイナスが理解できると、それをゼロにするための施策は案外簡単に出てくるもの。例えば、問い合わせ導線の改善や、HPのファーストビュー改善・SNSのプロフィール改善、Googleの口コミ対応などなど…
伝えたいことがある場合は、伝える内容より先に伝え方を検討してほしい。これが、最初のポイント。
【2】フロー施策とストック施策を分けて考えることが大事。
次は、どの施策を、どのように推進すべきかを考えたい。ここで注意して欲しいのが、マーケティング施策の優先付け。マーケティングの施策は本当に幅広く、どこから手をつけたら良いかわからなくなりがちです。
何を目的に、今どの施策に向き合うべきなのか…それを明確化するために、それぞれの施策をフロー施策とストック施策を分けて考えてみてほしい。これが2つ目の大事なポイント。
ストック系|質が大事:コンテンツの作成に時間がかかるけれど、クオリティやその内容の質が自社ブランドの価値観やメッセージをよく表したもの。
フロー系|鮮度が大事:自社ブランドの最新情報や自社の様子を等身大で表現したもの。見る人にとって少なくとも2-3週間前に投稿されたものが最新情報としてみれる内容が好ましい。
この両方にとって大事なのは、読み手の存在を意識し、読み手自身が自分のことを想ってくれていると感じさせること。いつでも両手を広げて待っていてくれるような…そんな様子をイメージすると良いと思います。
【3】 熱量のこもったコンテンツは、ちゃんと読まれ・心に届く。
心に届いたコンテンツは、記憶に残り、ふと思い出せる。
最後に、全ての施策の理想的な到達地点を挙げてみる。それは、読み手の心に届き、いつでも想起してもらえる状態に持ってゆくことが何よりも大事であるという点です。
面白いことに、体温を感じる、熱量あるコンテンツはちゃんと読み手の心には届き、それがデータとしても可視化できてしまった…!
少し話は逸れるが、とても印象に残るinstagramの運用をしている友人がいる。当の本人は全く気にしていないと思うのですが、彼女の投稿にはその瞬間瞬間の心の動きが繊細に描かれており、その飾りのない文章が持つエネルギーが満ちているのです。
そして、彼女の周りの人は、彼女に会うと「instagram見たよ!ほんとにいつも素敵ね」と。
もちろん、友人の投稿だからこそよく見ているというのはあるが、こんなにもInstagramの投稿について話題が上がることもないだろう。それほどに、人の心に残り、記憶として蓄積されているんだと思いました。
■結論、必要なのは、自社のLoverである
さて、この1年マーケティングに向き合って気づいたこと。それは、確かにマーケティングの知見やスキルはあるに越したことはない、だけどそれ以上に、熱意と信念をもって施策を推進できる存在が、なによりも大事だということを痛感しました。
だからこそ、いま、マーケターを雇おうとしている中小企業の経営者さんには心から言いたい。
「マーケターではなく、Loverを雇え」と。
自社のLover(つまり、自社ブランドをこよなく愛し、積極的に知ろうとする存在)の好奇心のままに、惜しみなく体験してもらう・惜しみなく知ってもらう。そして、自分の目で見て・感じたことを発信してもらう。うわべだけの言葉ではなく、本当に心が動いた人の言葉は、きっとどんなマーケティングスキルにも優る。きっと、現場で実際にお客様と対話したり、設計を行う人がコンテンツ作成の時間を割くことができる状態が理想だと思う。でも実際の組織の構造上、そのようなリソースを割くことは、なかなか難しい。だからこそ、Loverを、マーケティング担当として雇ってみてほしい。そう強く思います。
自社の魅力を自分なりに解釈し、発信する時間的余裕のある存在が、本当に大事。
確かに、定点観測や比較検討(ABテスト)をはじめとするマーケティングの基本的な活動はとても大事です。でもその分析だけでは、ブランドのイメージをしっかりと担保しながら、継続して発信し続けるのはとても難しいということにも気付かされました。自社ブランドの歴史を理解し、最新の動きも把握している、そんなフロー施策とストック施策の両方の観点でコンテンツ制作ができる存在。そのLoverによる情報発信を軸にして、必要に応じてマーケターの力を借りること。それによって、効率性と熱量のあるマーケティングが成り立つのだと信じてやみません。
Lover理論について提唱したい
さて、今回発見したLoverという存在。これは、マーケティングの世界だけでなく、事業開発の世界でも類似のことが言えると思います。
例えば、マーケティングの世界における"ロイヤルカスタマー(顧客のLover)"や、スタートアップの世界における "エバンジェリストユーザー(First Lover)”......
これらの概念には、今回触れたLoverと共通する概念が含まれていると思うのです。
ブランドに何らかの強い愛をもった存在、その存在をコアとした事業運営をLover理論と名付け、次の記事では、事業開発におけるLoverについて紐解いてゆきたいと思います。