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【読書記録】『時代の反逆者たち』を読んで考えたこと。

青木理さんの対談集『時代の反逆者たち』を読みました。

この本は、9人の方々との対談集なのですが、各ゲストの方々のお話が無茶苦茶濃くて、9冊の本を読んだような、手応えのある読書でした。

以下、各方々の対談部分で、心に残ったことを簡単に書き留めました。


李琴峰さん

とにかく心に残ったのが、LGBT問題に関するお話。
Tの人だけを切り離してバッシングすることは、結果的に分断を狙うことになり、LGBTの方々全体を攻撃することになってしまう、と。
例えば女子トイレと女風呂問題、あれって実は誘導されてたりするんでしょうか。

また、負の過去に対する向き合い方や、記録することの重要性について。
損して得取れじゃないですけど、倫理的な罪を認めることでしか手に入らないものって、ありますよね。

中島岳志さん

永遠の微調整を続けることが「保守」。
中島岳志さんのこの考え方は、以前NHKの番組でも仰られていたので、知ってはいたのですが。
微調整を続けることで社会を良くしていくというのは、軋轢を生みにくい上、変革によって取りこぼされた層を次の微調整でフォローすることもできるので、発想としては非常に穏健ですよね。
だから、心に残る。

また、理系の人に人文学の教養が必要なように、文系の人間にも理工系の基礎教養が必要と仰られていて、これは耳に痛い。
対談の本旨とは少しずれてるかもしれませんが、ああ肝に銘じようと……(でも物理とかついて行けない……)

松尾貴史さん

自分が正しいと思って批判する人たちは、言うことが難しくて人を集められないし、仲間割れしやすい。

松尾貴史さんのこの言葉は、野党支持者あるあるの傾向で、もう耳が痛いですね。今回の衆院選中にも、野党支持者内での対立がありましたし、野党共闘もできなかった。
しんぶん赤旗が裏金問題を暴いて、立憲民主党や国民民主党の票は伸びたのに、日本共産党の票が伸びなかった。

だから衆院選後、X(Twitter)上で共産党の敗因を皆さん分析されていましたね。わかりやすい言葉で、SNSを使ったPRをと。
同じ内容の政策を訴えているのに、よりわかりやすい表現をした党に票が流れるというのは、もったいないことです。

松尾さんも対談の中で、せやろがいおじさんみたいな人がたくさん必要、とおっしゃっています。
わかりやすく笑わせながら政治を語る、考えるというのは、政治の裾野を広げます。風刺から共感を呼ぶ。目指すのは、みんなの暮らしがよくなること。差別はしない。誰も取りこぼさない。

政治を考えて行動するのは、政治家の人たちだけじゃなく、我々市民が主なんだということを、我々自身が「わかりやすく笑いもある政治の会話」をしなきゃいけないんだと、考えさせられました。

国谷裕子さん

すべての政府は必ず真実を隠そうとする。
アメリカでもローカル紙が衰退すれば、記者が半減し、地方政府や地域出身の連邦議員を監視追及する記者がいなくなる。さすれば腐敗が横行する。

新聞はいずれ廃れていくと思っている人は多いでしょうが、そうなると記者が少なくなるので、政治が腐敗する? 
それ、ジャーナリズムが機能してる国の話で、日本はとっくに腐敗が横行してない? 
もっと政治家に対する監視の目を強めなきゃいけないのに、ますます腐敗を見逃していく社会になるっていうこと?
まずいじゃん!

この人に任せておけば大丈夫! なんて封建領主(しかも奇跡的な名君)みたいなのを政治家に求めちゃダメなんですね。権力者の腐敗は必須。
政治家は、監視されるべき立場。

指宿昭一さん

ウィシュマさんのように、日本で虐待・迫害を受ける外国人の方々には、私も本当に申し訳ないと思っております。

指宿さんはこの国に対し「外国人を管理するもの、ととらえていて共生する相手という意識がない」と仰っています。
だから外国人労働者にたいして、どこか差別的な目で見ているし、社会を構成する仲間という意識で彼ら彼女らの人権を尊重しようとしない。

「善良な社長を奴隷主に変えていくのが、技能実習制度だ」という「移住者と連帯する全国ネットワーク」代表の方の意見も挙げられています。
人の意識は低きに流れる。
だから、より弱い立場の人の人権を守る法や制度が必要なのだし、外国人の方を守ることはひいては自国民を守ることだよなと、思うわけです、第二次大戦後のドイツ人が、近隣諸国の人やユダヤ人から受けた虐待を見ると。

奈倉有里さん

宗教を禁じたソ連時代に、逆にロシア正教が人々の心のよりどころになり、ソ連崩壊後、「無宗教だったから失敗したんだ」となり、政権とロシア正教が癒着・一体化し、果ては暴走してウクライナ侵攻に至ったと。

その辺は、ちょっと過去に読んでいたので、なんとなく腑に落ちました。

ただプーチンの暴走に過程に「政権によるメディア弾圧と言論の不自由化、宗教と政治権力の一体化、同時に煽られる排外主義、テロ対策の名目で強まった監視体制と警察権力の肥大化、そして景観美化などを名目とする少数者や困窮者の排除」があって、その結果プーチン政権は専制性・独善性を強め、ウクライナ侵攻に突き進んでいった、となると、どこかで見た景色なので、とても他人事とは思えませんね。

斎藤幸平さん

『人新世の「資本論」』の方は、やっぱり『人新世の「資本論」』の方だと思いました。

斎藤幸平さんは、脱資本主義社会への大胆な改革の必要性を説かれていて、それは今の速度じゃ地球がもたないよということなんですけど。
気候変動。異常気象。
これまでに経験したことのないような、大型台風や豪雨が来てることから、まずい状況というのはわかります。
でも、ちょっとの努力で、つまり微調整でなんとかならないかな? と思いたい気持ちも、我々の中にはある。
怖いから、直視したくない。その結果、更に怖い現実が待っているかもしれないけれど。

だいたいこういうのはしっぺ返しが来るもの、と歴史が証明しているので、まずいんですけどね、本当に。

栗原俊雄さん

歴代日本政府は、戦死者の遺骨を収容しようとしたがらないし、遺骨を遺族に返したがらない(菅直人政権を除いて)。
戦争責任を問われることにつながるのが、都合が悪い。と。

戦争中に外地で戦士された方のご遺骨を、戦後もそのままにし続けていたというのが、ちょっと現代の感覚では信じられないんですが。
確かに辺野古埋め立て用に採取した土の中にはご遺骨が埋まっている、と批判を受けてましたよね。
つまり戦後80年近く経ってもそのままだし、意識のアップデートもされていないと。

国の命令で戦地に赴いたり、国の無策さ故に戦死された方々のご遺骨を回収すること、せめてご遺族の方々にお返しすることは、国の責任じゃなかろうかと思うんですが。この国の大半の政治家にとっては、そうじゃなかったんですかね。

金英丸さん

1965年の段階で、日本政府も、韓国の人の個人の請求権が残ることは認めていたんですね! あ、朝鮮半島を植民地にした賠償請求の話です。
日本政府が認めてたのなら、そりゃ、仕方ないですな。

そもそも揉めているのも、韓国併合についての日韓の認識の違いだとか。
つまり、「法的に有効だったものが、敗戦で無効になった」とする日本側の意識と、「そもそも併合は不法だった」とする韓国側の認識との違い。
他国を植民地にしたこと自体が悪かったと、日本が思っているかどうかという話なんですね。

ああ、勝てば官軍、負ければ賊軍、そういう意識で日本はやってるのか。
失敗は敗戦したことだけであって、領土拡大は是という戦国大名意識でやってるのかな、21世紀の今でも。
国内感覚で対外侵略戦争をやったから負けたのに、何も学んでないんだな。

おわりに

以上、日本が抱える問題が多岐に渡ることを自覚させられた、重い一冊でございました。
不勉強で知らなかったことも多々あり、もっと突っ込んで知る努力をしなきゃいけないことも痛感させられました。

本を読むと、自分の無知さを思い知りますね。
まあ驕り高ぶるよりマシか……と思ってること自体が驕り、ではありますが。
さてさて。

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