【読書記録】『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』を読んで考えたこと。
永濱利廣さんの『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』を読みました。
以前より、失われた30年の検証が必要だよね、と思っていたので、やっと一つ宿題に手を付けた気分です。
ただ2022年の本なので、タイトルの中に「物価は安いまま」とあり、昨今の物価高にあえぐ庶民からすると、「ええええええ?」とはなります。
まあそれでも、諸外国と比べると物価は安いし、この本が出た頃は今よりもっと安かったし、仕方ないよね、ということですかね。
低所得・低物価・低金利・低成長の日本病。
当の日本は、バブル崩壊以後の失われた30年を総括してなくて、実際多くの人が「なんでこんなに長い間、経済停滞してるんだろう」と思っているんじゃないかと思われます。私もそうでした。
しかし欧米各国は、日本衰退の原因を追究し、自国が同じ轍を踏まないように研究してたようなんですよね。
それで、リーマンショック時にも速やかに的確な対策を打ち、不況の影響を最小限にとどめたとか。
同じことを日本もバブル崩壊時にやっておけば……というのは結果論ではありますが、30年もずるずる後退してるのは事実なので、過去の失敗の検証不足という我が国の体質は、いい加減あらためないとまずいです。
この本でも、不況を脱するための経済政策として、以下のことが挙げられています。
・低金利
・国債発行
・公共事業
・消費税減税
消費税減税以外は、基本的にアベノミクスを肯定している内容ですね。
国債=未来への借金、という考え方も、否定されています。
要するに、景気回復して2%くらいのインフレが続けば、もともとの借金の金額もどんどん軽くなるし……ということだし。
リーマンショック後の欧州も、これらの政策で乗り切ってるんだから、過剰に恐れることはない、という意見です。
コロナ禍でも、欧州は消費税減税を打ち出しましたよね……日本はやらなかったけれど。
なので、ちびちびしょぼい経済政策を小出しにしていくより、思い切った対策をする方がよい、ということのようです。
ただまあ、この本を読んでいくと、消費税増税をやったことには反対してますけど、それ以外の自民党政権の方針にはおおむね賛成のようで、庶民生活の苦しさを軽視しているんでは? と見受けられる箇所もしばしばあります。
例えば。
非正規で働いている人の大半が、正社員になりたがらない?
平均所得が減ったのは、女性や高齢者が働くようになったからで、問題ない?
解雇が自由にできないから、労働者の流動性が低い、だから低所得?
いやいやいやいや、そうじゃないでしょう!
そりゃ、短時間勤務を希望する主婦層や高齢者はいるよ?
でも、非正規で週5日、毎日7時間や8時間働いている人たちだってたくさんいるし、その人たちは正社員になってもっと稼ぎたいんだよ。
解雇が自由にできるようになれば、実質40歳定年になるだけだし、30代以下の若者だって、「解雇するぞ」の脅しをかけられるようになるから、経営陣ばかりが強くなる。パワハラの横行が目に見えるよ。90年代後半のリストラの波で経験済みじゃん。
より条件のいいところに転職すればいい? いや、より条件の悪い非正規の仕事が増えるだけだって。氷河期を忘れてないよ、日本人は。
日本の農業にしても、農家はもっと農産物を輸出して売り上げを伸ばせ、と仰ってますが。
単に、金を稼げればそれでいいの?
経営的に黒字を出すことだけじゃなく、国民を食べさせる食料政策を考える必要はないのか? 国家経済を唱えるのなら。
それは経済学の範囲外です~、ということなのかもしれないけれど、国民あっての国家だし、国民あっての経済じゃんかよ。中国政府だって「有事に国民を飢えさせない」ことは最低限視野に入れてるのに、外貨を稼ぐ農業推進ばかりやってたら、有事には、この夏の米騒動どころの騒ぎじゃなくなるよ。国内消費向けを切って、輸出農業をすすめるんだから。
なので。
この本はひとつのご意見として受け取って、もっと別の視点の検証が必要だなと思いました。
欧米や中国で日本の30年を検証したくらいの、未来に活かすための本気の検証が。
経済理論だけじゃなく、国民の生活を本気で考える、政治に活かすための検証が、必要。
そして、アベノミクスを肯定する人でさえ、消費税増税は誤りとしてるんだから、この増税の罪は認めるべきだと思うんですよ、本当に。
少なくともデフレ脱却して、国内産業が元気になるまで、消費税率を上げるべきではなかった。
経済衰退して、税収を維持するために税率上げるって、自滅でしかないじゃん。
というようなことを考えた、読書体験となりました。
高所得の人ほど、消費税減税に反対するって、うんうんそういうことなんですね。庶民からふんだくりゃいいと思ってんのかよ。
得か損かじゃないのよ。
みんなが活きていける社会じゃないと、地盤沈下は避けられないのよ。それを、私は帰省した時にしみじみ感じたので。
自分だけは得をしたい、弱い奴を蹴落として這い上がりたい、そんなの無理だから。みんな沈んでいくだけだから。
実際、日本が貧乏になっていってるから、強盗闇バイトみたいなのが横行してるわけだし。途上国じゃんよ(あ、衰退国か)。
きれいごと、なんかじゃなくて。
一蓮托生なんだよね、実際は。
無人島でひとりで、電気も水道もなく生きていくことは、できないから。
誰も取りこぼされることなく大事にされる社会。そんな社会にしたいな、と思うんですがね。