つるバラに合う、五線譜に散らばる音符のような赤い実|花の道しるべ from 京都
Barry McGee、杉本博司、塩田千春、荒木経惟、井田幸昌…。現代アートの第一線で活躍するアーティストたちの作品が迎えてくれる。ジュニアスイートに何気なく置かれたデスクは、倉俣史朗の「TSUKUBA」。細部にまでこだわりが見られる。
京都市の中心部、西洞院通に面した「node hotel」。“アートコレクターの住まい”をコンセプトにしたホテルで、暮らしの中でアートを身近に感じられる。設計は、友人の竹内誠一郎くん。安藤忠雄氏の下で学んだ若手建築家だ。コンクリート打ちっ放しのシンプルでスタイリッシュな空間で、アートの存在感が際立つ。美しいPコン*へのこだわりは、安藤先生譲り。
このホテルを常宿にしている東京の友人も多い。ファッションイベントやレセプションにもよく使われるので、私もよくお邪魔している。一度、このような場で花をいけたいと考えていたのが、昨年の朝日新聞の連載(昨年8月には、安藤忠雄氏設計の「京都府立陶板名画の庭*」に蓮をいけた作品を紹介した)で実現した。
花を飾る場として選んだのは、1階のパブリックスペース。カフェ、レストラン、バー、と時間によって様々な使い方ができる、使い勝手のよい空間だ。
モノトーンで落ち着いた空間に、野暮な花は似合わない。すぐに思い浮かんだのがエジプトの瓶だ。先代である祖父が集めた器の一つで、私の好みの器の一つ。金属製で、黒地に金で植物文様が描かれている。何よりシルエットが美しい。肩の張り具合といい、くびれ具合といい、鍛え抜かれた肉体美に通じる絶妙なフォルム。シックで洗練された空間にぴったりだ。
花は、サルトリイバラにつるバラ。こちらも、好みの組み合わせだ。サルトリイバラはその名の通り、棘があり、赤い実をつける。折れ曲がった枝ぶりが特徴的。リズミカルな実の付き方は、五線譜に散らばる音符を連想させる。
サルトリイバラとつるバラは相性がよい。いずれも棘があり、流れるような曲線美が持ち味。つるバラは品種も多様で、色や形状の異なるつるバラを取り合わせるのも楽しい。入手しづらいのが難点だが、その魅力は他に代えがたい。
以前、寺田倉庫の画材ラボ「PIGMENT TOKYO」でもこの取り合わせを披露した。4500色におよぶ顔料や200種類を超える古墨など希少な伝統画材が取り揃えられた空間。色鮮やかな背景は、node hotelとは対照的。同じ作品でも、季節が違うと見え方が変わってくるのがおもしろい。node hotelの作品は熟した赤い実が見ごろだが、PIGMENT TOKYOの作品は10月上旬で青い実が少しずつ色づく頃。緑から黄、橙から赤へと移りゆく微妙な色合いには、また異なる魅力がある。丸くて愛らしい葉もまだ落ちずに残っていて、有機的で柔らかい印象に。背景に合わせて、バラの花色も心持ち華やかめに。
この好みの取り合わせ、今年はどこで披露しようか。
文・写真=笹岡隆甫
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