【行政院 旧台北市役所】竣工から5年足らずで敗戦を迎えた市役所の新庁舎|『増補版 台北・歴史建築探訪』より(7)
ここは日本統治時代の台北市役所である。竣工は1940(昭和15)年で、翌年から使用されている。つまり、竣工からわずか5年足らずで終戦を迎え、中華民国・国民党政府に接収された官庁建築である。
日本人が台湾を去った後、ここは中華民国台湾省行政長官公署となり、その後は行政院が使用するようになった。行政庁舎としての機能に変化はないが、現在、この建物がかつて台北市役所だったことを知る人は多くない。
建物は装飾を排したデザインである。建坪数は1122坪で、広い前庭を擁している。庁舎の建設は1936(昭和11)年からの2カ年事業として計画された。当初は総工費120万円が計上されたが、最終的には151万円(現在の貨幣価値では8億6070万円相当)という巨費が投じられた。戦時体制下、工事は遅れたが、完成時には台北市内指折りの大型官庁建築として話題となった。
建物の表面には黄土色の地味な色合いのタイルが貼られている。これは司法院の浅緑色と同様、「国防色」と呼ばれたものである。この時代の建物ではよく見られるもので、その派手さを全く感じさせない色合いには、空襲を意識せざるを得なかった当時の世相が見え隠れしている。
旧台湾総督府庁舎などと同様、この建物を上から眺めると、「日」の字型をしているのがわかる。四周に事務室を配し、中央には大講堂が設けられているが、これはかつての台北市議会議事堂である。正面中央部は4階建てとなっているが、その両脇の部分は3階建て。戦後も建物自体が大きな改修を受けることがなかったため、ほぼ原形を保っている。
建物の前に立ってみると、前面に美しく並んだベランダもまた、すっきりとした印象を与えている。2003年からは毎週金曜日に限り、内部の参観ができるようになった。外国人でもパスポートを携帯すれば参観は可能だ。入口は正面玄関ではなく、天津街にある通用門となっている。
──書籍『台北・歴史建築探訪』は、台湾在住の筆者が20年かけて取材・撮影してきた渾身の作。今回発刊される増補版では、初版の171件に加え、コロナ禍でリノベーションしたレストランやカフェなど、実際に訪れたくなる約40件を新たに追加しています。カラーの美しい建築写真をご覧になり、日本人と台湾人がともに暮らした半世紀を振り返れば、きっとまた台湾を旅したくなるはずです。ぜひお楽しみください。
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