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福岡・IMURIの土鍋和風おこげ|柳家喬太郎の旅メシ道中記

当代一の落語家・柳家喬太郎師匠。お声がかかれば全国あちこち、笑いを届けに出かけます。旅の合間の楽しみは、こころに沁みる土地の味。大好きなあのメシ、もう一度食べたいあのメシ、今日もどこかで旅のメシ──。この連載「旅メシ道中記」では、喬太郎師匠の旅メシをご紹介します。

 学生時分からの非モテ文系男子で“格好つける”のが苦手です。おまけにお洒落に疎い。どのくらい疎いかというと、昔こんなことがありました──。

 僕が真打になって間もない頃。「笑点」でお馴染みだった故・林家こん平師匠を筆頭に大人数の編成で、北関東から北海道まで北上する長旅の仕事があったのです。

 どこかの街で、公演後の酒席でした。こん平師匠は無類の卓球好きだったのでジャージ姿でくつろぐことも多かったんですが、いつも身綺麗にして上等そうな服を着ていらした。そんな話から、僕の弟弟子が、「こん平師匠、どこのブランドですか?」って、服のタグを見せてもらったんです。やっぱり上物じょうものでした。同行してたうちの師匠・さん喬もこざっぱりとしてお洒落なので、「師匠いいですか?」って見せてもらった。やっぱりいいもの。で、「喬太郎アニさんは?」って僕のシャツのタグを見て弟弟子が放った言葉が、「何この『ザ・洗いざらし』*1って……!」

 そんな洗いざらし芸人ですから、お洒落な店に行くとちょいと緊張します。それが今月の旅メシ。福岡市の閑静な住宅街に佇むレストランIMURIイムリです。隣にある料亭・桜坂観山荘かんざんそうで年3回開催される「観山寄席」にお呼びがかかったとき、打ち上げで伺うんです。

 博多駅から車で約15分。夜景を見ながら食事ができる大人の隠れ家的な店とあって、周りはゆっくりディナーを楽しむカップルやご家族。光の速さでビールを吞むおっさんは僕くらいです。でもね、決して気取ってなくて、スタッフの皆さんも気さくだから、気付けば肩肘張らずに過ごせてるんです。

 醍醐味は、旬の野菜や近海でとれた魚介をテーブルまで運んで見せてくれて、好きな素材を好きな調理法でオーダーできること。「ヤングコーンのひげも天ぷらにしてください!」なんて僕の我儘わがままも聞いてくれます。「翌日は小倉こくらで仕事があるから少し控えなきゃ……」なんてことは1ミリも思わずに、「あぶってかも*2」や「おきゅうと*3」といった土地ならではの味覚を肴に地酒や焼酎も楽しんだら、外せないのがしめの「土鍋和風おこげ」。熱々の土鍋には餅米に黒米を混ぜたおこげ煎餅。そこに、干し帆立と海老、野菜が入った鰹出汁ベースの餡をかけてジュワッとなったところをすかさずいただきます! サクサクの煎餅にうま味たっぷりの餡が絡んで……嗚呼ああ、命の洗濯。こんな洗濯なら何度でも洗いざらしになりたい……なんて思うくらい英気が養われる、福岡の旅メシなのであります。(談)

談=柳家喬太郎 絵=大崎𠮷之

*1 某大手スーパーがかつて展開していた紳士用カジュアルシャツ 
*2 体長10センチ程度のスズメダイ。その塩焼き。主に福岡市近郊で食べられている
*3 日本海側でのみとれる海藻のエゴノリとイギスを混ぜ合わせて固めた加工食品

【IMURI】
福岡県北九州市小倉の料亭・観山荘別館を筆頭に県内で飲食店を展開する観山グループのレストラン。自然素材を使ったモダンな趣の店内で、和・洋の創作料理が味わえる。ダイニング奥には福岡市の街並みを一望するバースペースも。繫華街の喧騒を離れ、静かな旅のひとときを過ごしてみては。

【店舗データ】
☎092-762-7070
[所]福岡市中央区谷1-3-15
[時]昼11時30分〜14時30分、夜17時~23時(バーは24時まで)
[休]不定休
[料]土鍋和風おこげ(4枚)1,760円
https://kanzan.net/imuri/

【師匠プロフィール】
柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう)
落語家。1963年、東京都世田谷区生まれ。大学卒業後、書店勤務を経て89 年に柳家さん喬に入門。2000 年真打昇進。「博多はおいしいものがたくさんありますけど、『元祖赤のれん 節ちゃんラーメン』の豚の天ぷらも大好きっす」

出典:ひととき2024年7月号

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