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【岐阜和傘】城下町に花咲く、モードな伝統工芸(岐阜県岐阜市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2024年6月号より)

 鵜飼うかいで知られる長良川のほとり。かつて上流域から名産の和紙や木材が運ばれた川湊、今も問屋街の情緒が残る川原町かわらまちの一角にある「和傘CASAカーサ」は、県下でも珍しい岐阜和傘の専門店。和傘といえば京都や金沢の印象が強いが、実はシェア日本一は岐阜。さらに近年、伝統の技にモードな感覚を加味したデザインが、海外でも注目を浴びたり、雑誌の撮影に使われたりと、「岐阜和傘」は若い世代からの人気も上昇中なのだ。

築100年を超える町家に和傘CASAをはじめ岐阜の手しごとを商うショップが集結。店内には常時約60本の和傘が並ぶ。気軽に試せるレンタルも好評(上下写真)

 雨粒が和紙を叩くリズミカルな音、日差しは遮りながら柔らかな光を通す日傘の心地良さ。自然素材が織りなす用の美は、差す人ばかりか、見る人まで幸せにしてくれるよう。さらに使い終わって閉じた折の、シュッと細身のたたずまいの粋にも、岐阜和傘のこだわりが光る。

カラフルな和傘はインテリアとしても人気。美しさはもちろん「邪を跳ね返す」という縁起担ぎも
ピンと張りすぎず、緩すぎず。竹の骨組みのクセを見ながら和紙を張る微妙な加減が美しさの決め手に

 岐阜で和傘作りが始まったのは江戸時代のこと。長良川の豊かな水脈が育む美濃和紙、竹、撥水用の植物油など、良質の素材に恵まれ、最盛期には年産1000万本を超える一大産業に。東海地方には婚礼の結納品に和傘を添える風習もあったという。

「私の家にも母が嫁入りに持ってきた和傘がありました」と語るのは「和傘CASA」店長の河口郁美さん。歴史ある町家を生かした空間を、販売だけでなく、ミニ和傘の絵付けや糸かがりなど、長良川が育んだ手しごとを体験できる場として開放し、工芸と人々の縁をつなぐ。

「和傘CASA」を運営する河口郁美さん
和傘の開閉の要となる「ろくろ」。この精緻なパーツも、多くが長良川流域のエゴノキから作られる

 そして、そんな岐阜和傘の技を今に継承するホープが、和傘職人の河合幹子さんだ。「技を伝えるだけでなく、岐阜和傘を産業として成立させたい。暮らしが成り立ってはじめて未来に繋げていくことができる」

引退した職人からも教えを受け、技を習得した河合幹子さん。「閉じれば竹」の細身は仕上げの腕の見せどころ

 岐阜和傘の老舗の家系で、祖母の和傘作りを間近に見て育った勘どころと、前職の税理士事務所でのスキルを両輪に、次代を担う作り手たちと、共に歩める体制の確立に奔走。従来は分業であった、つなぎ(傘の骨の組み立て)、張り、糸かがり、仕上げなど各工程の技をすべて身につけ適材適所にシェア。一職人としてだけでなく、産業全体の底上げを志す姿勢が頼もしい。

SNSでも話題になった桜和傘。愛らしい意匠に技術と手間が尽くされ、納期は1年待ちだそう
祖母が得意とした伝統柄「月奴〈つきやっこ〉」を洋服にも似合うようポップにアレンジ(いずれも河合さん作)
糸かがりの美しさも和傘ならでは

 この和傘、意外にもお手入れは簡単で、雨傘は乾くまで陰干し、日傘は破れに注意、くらいと聞けば、早速、柄選びに心弾む。梅雨空に、初夏の日差しに、さて、どんな花を咲かせてみようか。

柔らかな光を通し、まるで心地良い木陰を持ち歩くような和の日傘

文=安藤寿和子 写真=佐々木実佳

ご当地INFORMATION
●岐阜市のプロフィール
織田信長のお膝元として名高い岐阜市は、長良川の恵みを感じながらの町歩きが楽しい城下町。とくに名産の和紙や木材の流通拠点として栄えた「川原町」は、問屋街の面影を残す街並みと旧家を利用したカフェやショップの新たな魅力が交わる人気スポット。また、長良川の鵜飼は初夏から秋の風物詩。かがり火が揺らめく中での伝統漁法が守り伝えられ、遊覧船などから見る船遊びも趣深い
●問い合わせ先
和傘CASA
☎090-8335-9759
https://wagasa.shop/

出典:ひととき2024年6月号

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