【岐阜和傘】城下町に花咲く、モードな伝統工芸(岐阜県岐阜市)
鵜飼で知られる長良川のほとり。かつて上流域から名産の和紙や木材が運ばれた川湊、今も問屋街の情緒が残る川原町の一角にある「和傘CASA」は、県下でも珍しい岐阜和傘の専門店。和傘といえば京都や金沢の印象が強いが、実はシェア日本一は岐阜。さらに近年、伝統の技にモードな感覚を加味したデザインが、海外でも注目を浴びたり、雑誌の撮影に使われたりと、「岐阜和傘」は若い世代からの人気も上昇中なのだ。
雨粒が和紙を叩くリズミカルな音、日差しは遮りながら柔らかな光を通す日傘の心地良さ。自然素材が織りなす用の美は、差す人ばかりか、見る人まで幸せにしてくれるよう。さらに使い終わって閉じた折の、シュッと細身のたたずまいの粋にも、岐阜和傘のこだわりが光る。
岐阜で和傘作りが始まったのは江戸時代のこと。長良川の豊かな水脈が育む美濃和紙、竹、撥水用の植物油など、良質の素材に恵まれ、最盛期には年産1000万本を超える一大産業に。東海地方には婚礼の結納品に和傘を添える風習もあったという。
「私の家にも母が嫁入りに持ってきた和傘がありました」と語るのは「和傘CASA」店長の河口郁美さん。歴史ある町家を生かした空間を、販売だけでなく、ミニ和傘の絵付けや糸かがりなど、長良川が育んだ手しごとを体験できる場として開放し、工芸と人々の縁をつなぐ。
そして、そんな岐阜和傘の技を今に継承するホープが、和傘職人の河合幹子さんだ。「技を伝えるだけでなく、岐阜和傘を産業として成立させたい。暮らしが成り立ってはじめて未来に繋げていくことができる」
岐阜和傘の老舗の家系で、祖母の和傘作りを間近に見て育った勘どころと、前職の税理士事務所でのスキルを両輪に、次代を担う作り手たちと、共に歩める体制の確立に奔走。従来は分業であった、つなぎ(傘の骨の組み立て)、張り、糸かがり、仕上げなど各工程の技をすべて身につけ適材適所にシェア。一職人としてだけでなく、産業全体の底上げを志す姿勢が頼もしい。
この和傘、意外にもお手入れは簡単で、雨傘は乾くまで陰干し、日傘は破れに注意、くらいと聞けば、早速、柄選びに心弾む。梅雨空に、初夏の日差しに、さて、どんな花を咲かせてみようか。
文=安藤寿和子 写真=佐々木実佳
出典:ひととき2024年6月号
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