【國立臺灣文學館臺灣文學基地】和洋折衷の木造家屋が並ぶ歴史景観エリア|『増補版 台北・歴史建築探訪』より(5)
幸町と呼ばれた界隈には、閑静な住宅街が広がっていた。高級官吏用の住宅をはじめ、区画整理された土地の上に公務員用の住宅や企業家の邸宅などが並び、台北でも指折りの住環境を誇っていた。同時に教育機関も多く、文教エリアでもあった。
こういった家屋は戦後に中華民国に接収され、政府関係者に当てがわれたが、環境の良さは保たれていった。民主化が進められる中、こういったものを公共財産として扱い、有効に活用していく試みが2000年頃から盛んになった。ここも日本式の木造家屋が続々と再整備され、文化活動やイベントを行なうスペースへと変わっていった。
ここでは歴史ある建築群の保存のみならず、創作活動を支援する機能も重視されている。そして、文化財保護と地域に根ざした「物語」の記録を推し進める基地にもなっている。
ここでは全7棟の日本家屋が展示空間となっている。台北市内では珍しく、個々の物件ではなく、エリア全体が歴史景観の保存空間に仕立てられている。建物の多くは1940年前後のものと推測され、すべてが木造平屋の和洋折衷の作りとなっている。展示空間としてだけでなく、生活感を醸しだす演出があったり、若い世代に向けて日本の生活スタイルを紹介したりする切り口もあったりして、見学は楽しい。
また、抹茶とスイーツが楽しめる「平安京MatchaOne」も人気を博している。ここでは日本式家屋の中で和菓子や抹茶をベースとした創作デザートを味わうことができる。
街角の老家屋を見つめ直すことで郷土愛を養い、楽しみながら歴史を学んでいくという試み。そういった姿をここでは目にすることができる。
文・写真=片倉佳史
──書籍『台北・歴史建築探訪』は、台湾在住の筆者が20年かけて取材・撮影してきた渾身の作。今回発刊される増補版では、初版の171件に加え、コロナ禍でリノベーションしたレストランやカフェなど、実際に訪れたくなる約40件を新たに追加しています。カラーの美しい建築写真をご覧になり、日本人と台湾人がともに暮らした半世紀を振り返れば、きっとまた台湾を旅したくなるはずです。ぜひお楽しみください。
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