山口の瓦そば(山口県下関市)|柳家喬太郎の旅メシ道中記
山口名物といえばフグと、あとは……フグ、ですよね。3年前まで僕の認識はそうでした。でも出会ったんです「瓦そば」と。
お初は、宇部市での落語会の打ち上げで行った居酒屋。〆に出てきたんです、熱々の瓦の上でジュウジュウ焼かれている茶そばが。「何ですかコレは?」と思いながらも箸をつけたら、これが実にうまかった。あんかけ焼きそばの麺の端っこの方みたいに、茶そばがところどころカリカリに焼けて香ばしくって、牛肉と錦糸卵も甘辛いつゆによく合う。2度目は新山口駅の食堂で食べて、これまた旨まかった。だから元祖の店があるって聞いて行ってきましたよ、川棚温泉まで。いやぁ、遠かった。宇部駅から鉄路で約1時間半、下関のずっと北の方。でもね、食べてみたかったのですよ、元祖を。
「はじめての瓦そばがおいしくてよかった! 最初がいまいちだと『こんなものか』で終わってしまいますから」とは、「元祖瓦そば たかせ」専務の山本幸也さん。これは、学校公演での子供たちに対する僕らの気持ちと同じ。落語を嫌いにならないでほしいから、はじめてって責任重大なんですよね。
「たかせ」の創業者が瓦にいろんなものを載せて試行錯誤して生み出した料理ですから、当初は商標登録なんかも考えたそうです。結果的にかなわなかったけど、山本さんは「おかげで県内各地で愛される料理になりましたし、今となってはそれでよかった」と晴れやかな表情で話してくれました。素敵な感覚ですよね。さらに「だからこそおいしく作ってほしい。うちのは、牛肉はシンプルに塩味ですけど、甘辛く味付けしている店も多い。違いがあってもそれがおいしいならいいと思うんです」とも。
僕も新作落語を創るから、わかります。頼まれたらほかの噺家に自作を教えますが「その代わり面白く演ってくれよ」と思いますもん。落語の場合、作者に許可を取ったり、稽古をしたりという過程は必要だけど、いろんな人が演ることで噺が揉まれて育つんです。作者へのリスペクトさえ失わなければ手を加えて構わないし、自分の落語にすることが一番大事。瓦そばも同じように磨かれると思うんですよね。
で、待ちに待った元祖瓦そばの味はというと、奇をてらわず「これがうちの味です」と、ドンと構えているようなおいしさでした。僕も、斯くありたいものです。(談)
談=柳家喬太郎 絵=大崎𠮷之
出典:ひととき2023年5月号
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