【猫ちぐら】雪深い村で編まれる暖かな猫の家(新潟県岩船郡関川村)
田んぼも畑も、冬になると深い雪にすっぽり覆われてしまう。昔、農作業のできないその時期に、村のひとびとは稲藁を編んだ。雨をよける蓑、雪道を歩く深ぐつ、炭を入れるかますなど、日々の暮らしに必要なものをこつこつと。猫ちぐらもそうした冬仕事のなかでいつしか生まれたものである。
猫ちぐらとはいわば「猫小屋」。猫は自分の体が隠れるような狭いところが大好きで、そこにいればとてもリラックスするらしい。
今ではもう藁を編む家もないけれど、猫ちぐらの製法は「関川村猫ちぐらの会」が受け継ぎ、伝えている。会員は現在27人。そのうち6人は道の駅に設けられた実演コーナーに毎日集い、和気あいあいと製作を続ける。
「なんだかんだ話して大声で笑いあってるから、1日があっという間。1年もすぐに過ぎちゃう」
事務局の伊藤マリさんがいえば、
「そだよねー」
「楽しくやればいいものができるよね」
と、また笑い声。
昔はどの家にも猫が2、3匹いて、ネズミ退治を請け負っていたそうだ。いちいち名前をつけたりなんかしなかったけれど、「じょっこ、じょっこ*」と呼びかけると、飼い主の声をちゃんと聞き分けて振り向いたという。猫も家族の一員だったのだ。
家族のための猫ちぐらはずっしり重く、頑丈で、ちょっとぶつかったくらいではびくともしない。時間とともに稲藁は飴色に変わり、20年たとうが形崩れもない。
材料の稲藁はすべて村で穫れたもの。村の中心を流れる荒川が清く澄んだ水を山から運び、おいしい米を育てている。
冬でも暖かく、ほどよく薄暗い猫ちぐらのなかで、猫は安心して夢を見る。やがて雪が降り、静けさが村を包んでも、ひとびとの温かな交わりは続くだろう。
猫たちはまどろみながら、まためぐる春を待っている。
出典:ひととき2022年10月号
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