なぜ、名古屋の人は喫茶店とあんこが好きなのか|〔特集〕名古屋──あんこの王国
名古屋人が喫茶店とあんこを愛するわけ
名古屋が誇るあんこを語る時、忘れてはならないのは「喫茶店のあんこ」である。
コーヒー1杯にパン、ゆで卵などさまざまなサービスがつく「モーニング」。一宮市発祥ともいわれ、今では名古屋の喫茶店の名物となったこのサービスにも、あんこものが提供されることがよくある。
なぜ、名古屋の人は喫茶店とあんこが好きなのか。
かつて尾張地方には、農作業の休憩時にあぜ道で抹茶を点てて楽しむ「野良茶」の習慣があった。昭和期、地元の繊維業は「ガチャマン景気」(機械がガチャンと音をたてると万単位で儲かる)で沸き、来客は機械音を避けて喫茶店で接待するようになる。一方、市内には和菓子店が多く、あんこの菓子は市民の気軽なおやつや贈答品だった。
あんこのトーストも、1921(大正10)年、和菓子屋から喫茶店に転向した店主が、パンをぜんざいに浸して食べる学生を見てひらめいたのが始まり。名古屋の喫茶店とあんこは、100年以上前から出合っていたのである。
喫茶処カラス
昭和レトロな雰囲気と絶品「あんトースト」
近年は、あんこメニューを作り続ける老舗喫茶店が人気を集めている。
「喫茶処カラス」は、1978(昭和53)年の創業。市内有数のオフィス街で、多くのビジネスパーソンや地元の人たちに親しまれてきた。
現在は、2代目の西脇美穂さんが、父である初代の味を受け継いでいる。「あんトースト」は焼いた食パン2枚であんこと生クリームを挟むスタイルだ。
「つぶあんを前もって煉り上げて空気をいれて口当たりをよくしておくことがポイントです。パンも美味しいので、耳は落とさずにお出ししています」
人気テレビ番組「孤独のグルメ」で紹介されてから、行列ができることも増えて、週末には6キロものあんこを煉る。煉られたつぶあんは、とてもなめらか。柔らかな生クリームとあんこが香ばしいパンとよく合う。焙煎後、あえて一晩おいてまろやかにした「カラスブレンドコーヒー」やクリームソーダとも相性が良く、耳もあるので食べ応え十分だ。
カウンター席の常連客とのおしゃべりも西脇さんの日課になっている。木枠のドア、ネオン管の看板、レンガの壁や年代物の時計などが醸し出す昭和の空気がなんとも心地よい。
案内人=畑主税
文=ペリー荻野
写真=佐々木実佳
企画編集=久保恵子
──この続きは本誌でお読みになれます。日本全国、1000軒を超える和菓子屋さんを食べ歩く“伝説の和菓子バイヤー”畑主税さんが、とっておきの美味しいあんこを求めて、名古屋の和菓子店・喫茶店を旅します。
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出典=ひととき2024年9月号